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ホーム > ニュース一覧 > 蓑島栄紀准教授の編著『アイヌ史を問いなおす―生態・交流・文化継承』(勉誠出版、2011年)が出版されました

 

 『 アイヌ史を問いなおす―生態・交流・文化継承』(勉誠出版、2011年3月刊、定価2,100円)

蓑島栄紀(本学准教授)

 

 このたび私は、『アイヌ史を問いなおす―生態・交流・文化継承』と題する本の編著者として企画・立案を担当し、十五人の執筆者のご協力をいただいて、東京の勉誠出版から刊行することができた。同社が長年にわたり出版してきた『アジア遊学』シリーズの第一三九号である。

本書は、一三編の論文と三編のコラムからなる。Ⅰ「アイヌ史の再構成」、Ⅱ「北方諸地域の環境・生態と歴史像」、Ⅲ「北方世界を行きかうヒトとモノ」、Ⅳ「北方先住民の現在と文化継承・生態系」の全四部構成である。

  現在、「アイヌ史」研究はさまざまな学説や研究姿勢が入り乱れ、統一的・全体的な歴史像を描くことが困難な状況にある。歴史叙述の基本である時代区分すら揺らいでいる。そうしたなかで本書は、ヒトと環境・生態系との密接な関わり、多方面のダイナミックな交流、そして過去から現在、未来に至る文化継承をキーワードに掲げて編集された。北海道だけでなく、本州北部や環オホーツク海域、アムール川流域などの歴史・文化も視野に入れ、さらに現代カナダ先住民の文化伝承の状況などを参考に、現在・未来にも目配りして、「アイヌ史」を幅広い空間と時間から問いなおそうとする点に本書の第一の特色がある。

 

 

アイヌ史を問いなおす

 また、東洋史学者の菊池俊彦氏(北海道大学名誉教授)や文化人類学者の佐々木史郎氏(国立民族学博物館副館長)のようなこの分野の大家や、瀬川拓郎氏(旭川市博物館副館長)、谷本晃久氏(北海道大学准教授)らのような現在のアイヌ史研究を牽引する研究者だけでなく、多くの若手研究者に原稿を寄せていただいた点も本書の特徴といえる。

 最年少の書き手としては、本学の五期生である中野巴絵氏(財団法人アイヌ民族博物館伝承課)、能登千織氏(しらおいイオル事務所チキサニ学芸員)の両人にも原稿をいただいた。中野氏は、アイヌ語教師の一人として、日々の試行錯誤の体験を紹介しながら、今日におけるアイヌ語伝承の現状とその課題について考察する。また能登氏は、現在、白老町など道内各地で進んでいる「アイヌの伝統的生活空間(イオル)の再生構想」について解説しつつ、アイヌ文化の振興・発展は周囲の自然環境の再生・復元と切り離せないことを説く。

 さらに、本学の位置する胆振東部・日高地方のアイヌ史の考察にも力を入れた。乾哲也氏(厚真町教育委員会学芸員)は、ここ数年来、北海道内でも指折りの発掘調査成果によって脚光を浴びている厚真町の遺跡・遺物を紹介しながら、そこからみえてくるアイヌ民族の豊かな歴史像を解説する。また私は、平取・厚真など太平洋側内陸部におけるシカ皮・ワシ羽などの高価な交易品の記録を手がかりに、活発な対外交流を繰り広げた古代~近世のアイヌ民族と生態系との関わりについて、やや大胆に思うところを述べてみた。

 

 ところで、私が本書の企画を思いついたそもそものきっかけは、昨年、文科省の科学研究費補助金(研究代表者・伊藤勝久准教授)によってカナダ先住民の組織「シックスネーションズ」を訪問したことにある。伝統的な言語・文化の継承や、生態系の再生・復元に関するカナダ先住民の先進的な活動、将来へ向けた努力や葛藤を間近に見たことは、すこぶる鮮烈な体験であった。いつしか、環境・生態や異文化交流などの新しい視点を組み込みつつ、現在・未来をも展望しうるような「アイヌ史」を描いてみたいという思いが湧きあがってくるのを感じた。タイミングよく、勉誠出版からのお申し出によって、その第一歩を思いがけず早く実現できたことは大きな喜びである。本書刊行のインスピレーションと原動力を与えてくれた、カナダでお世話になった全ての方々に心からお礼を申し上げたい。

 アイヌ文化・アイヌ民族の「いま」「これから」を考えるうえで、歴史像の問いなおしは不可欠である。多くの読者にご一読を願うとともに、来るべき「新しいアイヌ史」の構築に向けて、本書がいささかでも寄与するところがあれば望外の幸いである。

苫小牧駒澤大学 国際文化学部

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