読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラムです。
第1回目は、札幌駅地下街開発(株)※APIA 代表取締役の瀬戸社長です。次回は、元・裁判官 佐藤学さんのコラムを予定しています。

■第1回 感銘を受けた本 筆者:瀬戸 武さん

アピア・札幌駅地下街開発(株) 代表取締役社長 瀬戸 武 昔から本はよく読んだ方だった。ほとんど乱読に近い読み方である。最近は、多忙ということもあってじっくり本を・・と云う心境にならないのが残念である。たまには重みのある書を読まなければならないと思っている。この前は養老さんの「バカの壁」を読んでみたが、自分で頭を回転させながら読まなくては理解しづらい感がする。自分みたいに何時もだらりと乱読的には読めない本である。10数年前の国鉄時代に人事課長をしていたことがあって、入社試験とか各種登用試験の面接で“最近読んだ本は?”と質問をした記憶があるが、今考えてみるとなんとナンセンスな質問をしたものだと反省している。だいたい個人が読んだ本で、あたかも人間を評価することはおかしな話であって、当時はそんなことに気がつかなかった自分に腹がたってしまう。

 そもそも本と云うのは、自分のお金で買い自分の生み出した時間内で読み、そして自分の心の中に何かが残っていれば良いのであって、他人からどう感じましたか、との問いは愚問と云わざるを得ない。しかしながら<感動>を感じた本と云うのは、時間がたってもいつも心のどこかに残っているものである。

 ところで現在、参院選の最中であるが、先日、某新聞社で比例代表候補の経歴と横顔が載っていたが、どうゆう訳か1番目に<感銘を受けた本>と云う欄があった。これを見て、今までに読んだ本によって候補者を選択する判断材料として含まれていると思うと、何か気の毒な気もするし、前述したナンセンスな話と類似しているなと考えさせられてしまうのである。ちなみに各々の候補者の中身を見ると<感銘を受けた本>が政党によって幾分、偏りがあることが判明した。政党の思想によって異なるものだと感じたのである。1番多いのが「三国志」で、次いで司馬遼太郎の「坂の上の雲」「龍馬がゆく」等であるが、記入のない候補者も数人おり、その人たちはこんなナンセンスな問いに対し抵抗をしているように、私は思えたのである。

 さて、能書きばかりを語らず、ここで私の<感銘を受けた本>についてご披露することとしたい。

  もう10数年前になるが、書店でふと目にとまった本があった。それは堺屋太一著の「豊臣秀長・ある補佐役の生涯」であった。堺屋さんといえば当時、万博を企画した通産省出身の人気執筆家だという知識はもっていたのだが、これまでその著作を読んだことはなかった。後年には政治の世界で経済相になり、その強気の論で改めて、<堺屋太一>なる人間を知ったのであった。しかし、私は政治家としての堺屋太一は、どうしても好きになれなかったのである。官僚というイメージや、著書「団塊の世代」「次代思考の座標軸」等が固い本との印象が強かったので、世にあまり知られていない<豊臣秀長>なる人物を描いているのを見つけ、<意外>と感じたのである。一方私は、豊臣秀長の人物像について、数年前のNHKテレビ大河ドラマでの控えめな秀長、小一郎の印象が強く残っており、その人物が秀吉の弟と云うことは覚えていた。さて、著者がこの<秀長>に興味を憶えたのは30数年前からだそうであるが、この人物に関する著書などは何もないとある。それだけに秀長という人物は語られることのない研究の対象に薄い人物であり、その<語られなさ>に心が惹かれたのである。才能と功績を認められながら、語られることの極めて少なかった人物であるということが、とかく喧しい自己宣伝の多い現代社会の中で、ひどく特異に思った・・とある。彼の生涯は、秀吉を陰ひなたになって助け、今の言葉でいえば日本史上もっとも有能な<補佐役>であり、そうあること以上を望まぬ、現代における最も望まれる人物・人材であったような気がするのである。私は、この異質なキャラクターの執筆家と<秀長>なる希にみる人物をオーバー・ラップして、この本を買い求めたのであった。秀長の緩急をわきまえた行動、そして切れ者の兄の行動を見て“俺は生涯主役になるまい。この兄のために補佐役として生きていこう・・・“と自分に言い聞かすなど、波乱の戦国時代とともに鮮やかなタッチで兄弟愛が描写されている。政治の世界、現代社会において多様化する情報の中で、即断即決が重用視される今日、組織における良き<補佐役>の存在が、そのキーマンとして大きな役目を果たしていることを、つくづく感じさせられた1冊であった。

 私が何故この<本>を手にしたのかを考えてみると、私には中学、高校、社会人と、長きにわたり野球に情熱を注いだ時代があり、<捕手>として常に投手を裏から必死に支えてきた、その習性から<補佐役>という本の<テーマ>に大いに興味を持ったからだと思っている。そして社会人になっても立派な上役に巡り会え、そうした<役割>を願望として持っていたのかもしれない。だが、残念ながらこの貴重な本は、現在私の手元には残っていない。きっと部下の間で回し読みされたままなのであろう。せめて、誰かの書棚の片隅に<本>が残っていれば良いと思っている。

 その内、時間をみて、また書店巡りをゆっくり愉しんでみたいと考えている。そして、これからは重みのある良質の<本>を、じっくりと時間をかけて読むことにしようと思っている。・・・・<私と本との、今日この頃である。>
2004年7月5日脱稿


■筆者プロフィール
瀬戸 武さん [アピア・札幌駅地下街開発(株) 代表取締役社長]
平成8年:札幌駅地下街開発(株) 代表取締役社長
平成6年:札幌駅地下街開発(株) 代表取締役専務
平成2年:北海道旅客鉄道(株) 取締役釧路支社長
昭和59年:同・釧路鉄道管理局 総務部 人事課長
昭和33年:日本国有鉄道入社

上へ移動↑