読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラムです。
NPO法人コンカリーニョ理事長斉藤さんに 続く第5回目は消費者問題の専門家渋谷絢子さん「気をつけて、振り込め詐欺」。年末さまざまなテレビ番組で筆者の渋谷さんを見た方が大勢いらっしゃると思いますが、消費者の敵に敢然と立ち向かうその生き方は、プロフィールにも強烈に表れています。こちらも是非どうぞ。

■第5回 気をつけて<振り込め詐欺!> 筆者:渋谷 絢子さん

渋谷 絢子 全国消費生活相談員協会 北海道支部長 読書雑感とは大変なテーマを貰ってしまったものだ。どうしてこのテーマで安請けあいしたのかと、今になって悔やまれる。なにしろ読書好きでもなく、おまけに最近は殆ど本らしい本など読んでいないのだから。でも、断るのも悔しいので読書雑感とは程遠いかもしれないが、思いつくままに書くことにする。

 つい先日、UHBテレビの“トークで北海道”という番組で「振り込め詐欺」事件を扱った。その1ヶ月ほど前にも“おれおれ詐欺と不当請求”という事件で、コメンテーターをつとめた。番組は午前中なので、家庭にいる主婦が対象。主婦はまだ、あまり携帯電話は持っていないと思っていたのだが、夫の被害も含めてだとは思うが、番組に掛かって来た電話の殆どが、携帯電話による不当請求に関するもの。アダルトサイトなど見たこともないのに、なかには携帯を持っていないのに、“入会金、利用料が未納。すぐに電話をよこせ”という“はがき”がきたという。番組にこれだけ寄せられているのだから、日常的に携帯電話を使っている若者に対する不当請求はかなりのものだと思える。だとすると、この雑感を読むであろう学生読者の為にこの事件に触れるのも役に立つかと思うので、書くことにする。

 こうした架空請求に絡む相談は、もう3年程前から消費者センターに日に数百件も寄せられ問題となっている。なかには「支払ったら、また請求され80万円も支払わされた」「何度も電話を掛けられた」などと被害に遭う例も若者を中心に多く、相談全体の3分の1にもなっている。

 先ごろ警察が、新聞をにぎわしている“ヤミ金業者による違法な利息請求”事件、“おれおれ詐欺”、また携帯電話やパソコンによる“アダルトサイトの利用にかんする不当請求”などなど、“高額なお金を銀行や郵便局に振り込ませる”という手段を取る一連の詐欺事件を“振り込め詐欺”と名付けたと報道されていた。今さら名づけてもどうなるものでもないのに、とも思うが、名づけたことで本格的な取締りの出発となるなら歓迎だ。なにしろ口座振込みという手段を使うことによって、顔をさらすことなく、お金を受け取ることができ、それも売買された口座を利用するとなると、まったく身を隠すことができるからだ。

 この講座の売買については、ようやく「本人確認法の改正」が成立して、売った人、買った人、通帳の譲り受けも、また広告した人も50万円以下の罰金、業としてした人は200万円以下の罰金ということになったから、これでおれおれ詐欺の被害を含めて、少しは減るのではないかと期待される。

 不当請求にどんな手口が使われるかというと、まず、さまざまな名簿やパソコンのランダム発信によって、はがきやメールで大量に発送される。まずはその量が問題なのだ。10分間に何通という割合で出されるとも聞く。携帯電話を使っていない人にまでも請求書が行くことになる。併せて、ワン切りのように返信した着信履歴によって、そのアドレスに請求が行く。だから、業者は多くの場合、あなたの住所や職業などの個人情報を持っていず、請求の根拠がないものが殆どなのだ。それだけに、相手の要求に従って電話や返信をすることは、相手の思う壺なのだ。とかく、律儀な人は請求される根拠のないことを伝えなければならないと考えがちだが、相手業者はそれを待っている。蜘蛛が糸を張って待っているようなもの。「自宅まで取りに行く」と脅かされて聞き出されてしまうのがおちなのだ。アクセスして、あなたのメールアドレスが相手に記録されたとしても、残るのはアドレスと記号のような名前だけ。あなたを特定する情報は決して届いてはいない。

 だから、(1) 利用したことがなければ無視をすること。債権回収会社や法務局と似た名前でも応じることはない。こうした情報料の回収に認められた債権回収業者はないし、法務局が直接「支払え」というような文書を出すことはない。(2) ワン切りの電話にかけなおしたり、送られてきたメールに何かと思ってクリックし、アダルトと分って急いで切った、無料とあったから見たという場合も、お金を支払って見るという点で、契約を承諾をしているわけではないので支払い責任は生まれない。(3) つぎに、何度か見たという場合は、送られてきたメールやはがきの請求額が妥当かどうかを確認すること。高額な請求の殆どは遅延損害金。情報料なら、限度は消費者契約法で言う14.6%が限度のはず。(4) めったにないが、簡易裁判所の支払い督促か、少額裁判の呼び出しを使って請求してくることがある。この時は支払い義務があるかないかに関わらず、必ず“異議の申し立て”ないしは“呼び出しに応じる”必要がある。裁判所は申し出た業者のいうとおりに手続きの形が整っていれば受けるから、あなた自身が、支払い義務がないことを主張しないと、確定してしまう。こんな時は、消費者センターなどに申し出て手伝ってもらうとよいだろう。

 ついつい、読書雑感が説教調になってしまったが、皆が被害にあわないようにと願っている。さて、原稿を書き終え、改めて私の生き方を振り返ると、初めから望んだわけではないが、結果としてすべて消費者問題を軸に動いてきたと思われる。そしてまだ現在も進行形なのだ。消費者は「かしこく強くあれ」と願っている。
2004年12月20日脱稿


■筆者プロフィール
渋谷 絢子さん
全国消費生活相談員協会北海道支部長

1963年3月: 北海道大学経済学部経済学科卒業
1963年4月: 北海道庁消費経済課に勤務
1974年4月: 越谷市消費生活相談室、埼玉県春日部消費生活センターに非常勤勤務。
(詳細以下の通りです。)

公務員上級試験を経て道庁職員になる。消費者行政を担当する部署に配属になったことから、消費者問題と向き合うことになり、6年間消費者行政を担当。その間に消費生活コンサルタントの資格を得る。
結婚後、出産と夫の転勤が重なり、道庁を退職して埼玉県の団地に転居。子育てと平行して埼玉県の消費者センターなどで講師、相談員の仕事を非常勤でする。再び北海道にもどり、1982年5月 から道庁の消費生活相談所に非常勤勤務。その8年後、札幌消費者協会副会長兼相談課長として札幌消費者センターの仕事をフルタイムですることになる。一方で土曜日に北海道女子短大で教え始める。
消費者相談という消費者被害の問題を日常的に扱っている過程の中で、どうしても増える若者の被害を何とかしなければとの思いから、高校生を対象に単発だが、講座を持つようになる。その2年後、1992年には短大に併せて、北星学園大学経済学部で非常勤講師として「消費者保護論」を講義し、更に旭川の教育大でも家庭科の免許を取る学生に「消費者教育論」を教え、今も続けている。フルタイムの終わった現在ではこれに加えて北星大学で「消費者コミュニケーション」という心理学の分野で、悪質商法のメカニズム、勧誘技法などについての講義もしている。
現在、二つの大学と一つの短大で講義を持ち、同時に民事調停委員として多重債務者の返済のお手伝いもしている。

<著書>
「消費者相談ノート」北海道新聞社刊、
「介護トラブル相談ハンドブック」新日本法規出版(編著)
「ひとりになったとき」「パートナーシップの時代」
「若い友への手紙」 北海道新聞社刊。(以上、共著)
現在「消費者トラブル相談ハンドブック」を作成中、新日本法規出版から3月には出版の予定。

その他、北海道新聞紙上で、みんなの相談室で消費者問題を執筆。また、2000年10月から2002年6月まで、1週おきに「らいふウオッチ」を北海道新聞紙上に執筆。また「なぜ何エコノミー」(91/12〜93/4)、「今を読む」(98/3〜99/12)など。また高齢者向け旬刊誌「これから倶楽部」(道新発行)は、91年から10年にわたって毎号執筆。その他「法律の広場」には消費者契約法を、民事法研究会の「成年後見」など多数の執筆活動がある。

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