読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラムです。生活設計アドバイザー小沼肇子さんの胸のすくような積極的な生き方に続く今回第11回目は、大崎陽一さんの「偶然性の迷路から」をお届けいたします。失意をバネに、発想の転換に、多面的思考へと自己を変革し、その都度すっくと立ち上がってきた筆者の静かなエネルギーに心うたれます。
人生、捨てたモノではありません。今回は前編。どうぞお楽しみに。
■第11回 偶然性の迷路から(前編)

(株)東急エージェンシー北海道支社長 大崎 陽一さん悪魔の宣告:入社式

 もう少しで始まる・・。真新しいスーツに身をまとい緊張した面持ちで着席していた私だった。会場の大きなホールにはすでに何百人かの関係者であふれ、式の始まりを待つばかりの時である。「お呼び出しを申し上げます。オオサキ ヨウイチさま、至急ホール受付までお越しください。」女性のアナウンスが突然鳴り響いた。あわてて受付へ行った私を待っていたのは、それまで何度か会ったことがあるその大手流通会社の人事部長であった。「おうっ、悪いんだけどな、この前の話駄目になったんだよ、連絡遅れて申し訳ないんだが、会社の決定でな、勘弁してくれよな。」

 入社式当日、開始10分前にその会場で入社を取り消された。私は入社日に失業した。
わずか1単位が不足し、卒業できないために。それからの私は失意の中で生きねばならなかった。身から出た錆とはいえ、立ち直るのにかなりの時間と心の葛藤を必要としたのは言うまでもない。だがしかし、その後の10数年を経てその会社は他社と合併し、業績も振るわず当時同期として入社し研修で知り合った友人達は決して幸福とは言える状況ではなかったようだ。
 言わば逃れられないその選択は正しかったのか、不幸を一身に背負ったと思っていた私のほうがラッキーだったのか。何れにしても、この苦い経験は忘れたくても忘れることが出来ない。それならば二度と忘れないように頭に刻み込み、それをスプリングボードに生きるほうがたくましい。

生きにくい時代だから

 考えてみれば、人生はこのようなとんでもない偶然や予期せぬことに溢れている。
広告業界に飛び込んでからは、クライアントである大手企業への出向を命ぜられた。全く異質の企業文化を持つ世界に入ったこの時は、驚きと失望、孤独感、人間関係の難しさ等に大いに悩み、仕事を辞めて自殺したくなる気持ちも十分に味わった。
 だがそのとき、或る先輩のたった一つの言葉「そんな風に考えることは無いぞ、頭を切り換えろ。」と言われ、ハッと自分に気づいた。悩むことなど無い。落ち込むということは一種の失恋病であり、そのワナにはまることだと思った私は二度とそのようなワナにはまらないように、記念に当時としては高額なロレックスをローンで購入した。懐が痛かったが、けして忘れないためである。
 その昔、徳川家康が三方が原の合戦で武田信玄に大敗し、命からがら逃げてやっと浜松城にたどり着いた時、恐怖と疲労でこわばり頬のこけた自分の顔を絵師に描かせた話は有名であり、その絵は今も残っている。もちろん忘れないためであり、その失敗を二度と繰り返さない自戒のためであった。

 偉大な先人たちの知恵を、小さな自分かもしれないが役立てる〜当然本で学んだことかもしれないが、その意味で「本」は宝石箱のようにきらめく叡智で一杯だと思う。もし、読む人が心から何かを求めるのなら。
 人生は失敗と成功のコインの裏と表の関係にあると思う。日野原重明氏の著作に「幸福な偶然」という本がある。この「偶然」という非連続を「連続」として捉え、絶えず生成変化していく存在として考えるならば、人生は運命を愛するというツアラトウストラ的解釈もできるのではないかと思う。極めて生きにくい不確実性の時代だからこそ、この偶然性をどう自分のものとするかがまさに問われている。
2005年10月30日 脱稿

■以下、次回に続く。生きにくい時代に「プランナーの視点」から発想し行動する生き甲斐を熱く問いかける・・・・。どうぞお楽しみに!
筆者の勤め先URLはこちら
http://www.tokyu-agc.co.jp/index2.html

■筆者プロフィール
大崎 陽一さん [(株)東急エージェンシー北海道支社長]
■略歴
1949年 北海道札幌市に生まれる
1968年 北海道立札幌北高等学校卒業
1973年 日本大学法学部新聞学科卒業
1973年 (株)新生広告社 入社
1974年 (株)協同広告社 入社
1978年 日本広告業協会JAAA懸賞論文入賞
1979年 (株)東急エージェンシー 入社
主にイトーヨーカドー、ヨークマツザカヤ、ホーマック等
チェーンストアを中心に企画・営業職を歴任
2003年 (株)東急エージェンシー 北海道支社長
※現在に至る
(社)北海道広告業協会 理事 業務委員会委員長
全北海道広告協会 理事 表現研究委員会委員長

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