読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラムです。昨今、自己中心的な行動から引き起こされたと思われるさまざまな刑事事件や民事事件が海外国内を問わず多数発生しているように思われます。そして、そうした社会状況をとても悲しいことと憂慮されている方が、きっと大勢いらっしゃるのではないでしょうか?
さて、第13回の今回、トヨタカローラ札幌(株)を始め、多数の企業で経営トップとして活躍されている柿本 純さんの「集団の和」と「個人主義」に関しての一考察、「自己責任をもっと強く持たなければ・・・」をお届けいたします。
まずは、リラックスして楽しんで読んで頂きたいと思います。そして読者のみなさんもちょっと考えてみて下さい。
次回の「読書雑感」は、剣道を通して子供たちの育成に尽力されている(財)札幌剣道連盟代議員、NPO法人札幌青少年育成会琴似武道館館長の佐々木良太郎さんの予定です。
■第13回 「自己責任意識をもっと強く持たなければ・・・・」

代表取締役社長 柿本 純 トヨタカローラ札幌(株) 最近考えさせられることに、ある人間集団の「全体」とそれを構成する「個人」との関係ということがあります。特に、近頃のわが国では他人への配慮を欠いた言動や、自分の「権利」ばかり主張して、それに伴う自己責任とか義務には目を向けないという傾向が目だっているように思えて、私としては憂慮しております。

 外国人、特に西欧人は「個人」を大切にする「個人主義」と言われています。「個人を大切にすること」と「個人主義」とは微妙に違うように思わないでもありませんが、日本ではほとんど同じ意味で使われているようで、他人に配慮せず自分勝手なことをやっても良いというような意味で使われることが多いようです。
これに対して日本人は(注1)「和を以って尊しとなす」という言葉に代表されるように、集団の中での人間関係を重視し全体の調和を保つことを大切にしようという傾向が強いと言われます。
(注1) 日本人だけでなく、中国や韓国も含めてアジア系の人々にはこのような傾向が強いようですが、ここでは日本人としておきます。

 このように対比的に西欧人と日本人とを並べてみると、西欧では人が集まった時にそれぞれが勝手なことを言い合い、集団としては滅茶苦茶なことにしかならないようなことになりますが、実際には決してそうはなっていません。

 何故西欧がそうならないのかということに対する私の考えを先に言いますと、「個人」を大切にするということは「自分」だけを大切にするということではなく、「他人」をも大切する。他人を一個の人間として尊重するという姿勢があるからだと思う訳です。また、西欧人は,全体は部分の集まりであり、全体がしっかりするためには各の部分がしっかりしていなければならない、同様に社会がしっかりするためには、それを構成する個人がしっかりしていなければならないという自己責任の意識が広く認知されているからだと思うのです。

 それに対して、日本では第二次大戦後に西欧流の考え方が一挙に導入されたことによって、日本人の「集団に対する個人の向き合い方」というものに大きな揺れが生じました。個人的には日本的な集団と個人の関係が見直されること自体は非常に良いことだと思っている訳ですが、戦後60年という時間が経過したにもかかわらず、未だにその点に対する確固たる軸が出来ていないということが今の日本の問題だろうと思います。
確かに、過去の日本は「集団の和」を重要視するあまり「個人」というものが相対的に軽視されて来ました。それが第二次世界大戦の敗因の一つにもなっていたのだということを最近痛感した次第ですが(注2)、そうした反省もあって西欧流の個人を大切にしようとする考え方がわが国にも少しずつ広がって行ったのだと思います。しかし、個人を大切にすることは全体を決して軽視するということではなく、むしろ全体のために果たすべき一人一人の「義務」や「責任」は重くなるということもしっかり理解しておくべきだったと思うのです。
(注2) トヨタ自動車の奥田会長(日本経済団体連合会の会長でもあります)が幹部社員に是非読むように薦めたという「日本は何故敗れるか」(新書:山本七平著)を読んで頂ければ実感されるのではないかと思います。

 「集団の和」というものを大事にしようという趣旨自体は誠に結構なものだと思いますが、一方で個人の責任や義務を追求することもしないという「甘え」の社会構造をも生み出していたことも事実です。そんな社会では個人の権利が左程認められないことの引き換えとして自分の責任や義務も左程追求されないので、ある意味では「楽に」生きて行けます。また、皆で意見を戦わせてより良い方法論を追及するというよりは、誰か権威ある人の言うことに従う方が無難であるという権威主義的な風土も形成されてしまったように思います。

 例えば、2009年までに導入が予定されている「裁判員制度」などは、いいことづくめ、という制度ではないかもしれないとしても、日本人に自己責任の意識を根付かせる格好のチャンスであると個人的には思っているのですが、一般のアンケートでは「なりたくない」という人が7割もいるとのこと。しかも、その一番の理由は「有罪・無罪の判断が難しい」とか「人を裁くということをしたくない」といったことのようで、「自分が責任を負いたくない」という自己責任の忌避傾向が透けて見えてくるのは誠に残念に思います。

 日本人が本当に個人を大切にするとともに、全体の調和にも配慮した社会を築くためには、もう少し我々一人一人が個人の「責任」や「義務」というものに対する自覚を強め、実践して行く必要があるのではないでしょうか?
そんなことを考えながら、「木を見る西洋人 森を見る東洋人」(リチャード・E・ニスベット著 村本由紀子訳:ダイヤモンド社)を読みました。
2005年11月9日脱稿

筆者勤務先トヨタカローラ札幌(株)はこちらからどうぞ。
http://www.ekuruma.co.jp

■筆者プロフィール
柿本 純さん [トヨタカローラ札幌(株)・代表取締役社長]
■経歴
1949年(昭和24年)2月2日 生まれ
1972年(昭和47年)3月  北海道大学経済学部卒業
1972年(昭和47年)4月  東京火災海上保険(株) 入社
1990年(平成 2 年)5月  トヨタカローラ札幌(株) 取締役就任
1991年(平成 3 年)6月  トヨタオート函館(株) 取締役就任
1995年(平成 7 年)6月  トヨタカローラ札幌(株) 代表取締役社長就任
1998年(平成10年)4月  (株)ジェームスアンビシャス 代表取締役社長就任
2000年(平成12年)6月  (株)トヨタレンタリース新札幌 代表取締役就任
2001年(平成13年)6月  ネッツトヨタ函館(株) 代表取締役就任
2001年(平成13年)6月  松本自動車工業(株) 代表取締役就任
2003年(平成15年)6月  (株)ICS 代表取締役社長就任

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