読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラム、エッセイです。
第22回の今回は、トヨタ自動車北海道(株)社長の田中義克さんの登場です。田中社長は1年半ほど前、北海道苫小牧のトヨタ自動車北海道(株)に赴任されました。それまでは一度も生地の愛知県を離れたことがなかったそうです。人生初めての新鮮な経験は、青春時代の思い出や当時読みふけった小説など過去の自分を思い起こす貴重な契機となったようです。また道産子新人として、世界に誇ることができるこの自然環境や優れた人的資産を有する北海道の文化を大いに評価をするとともに、その大きな両方の資産が充分に生かされていないようにも思われ、あたたかく優しくそして厳しい提言も合わせて寄せてくれています。平易な言葉でつづられた今回のエッセイは、きっと読者の皆さんの心の中に“いつでも何度でも、チャレンジすることを恐れず果敢に羽ばたくことの大切さ”を思い起こしてくれるに違いありません。

■第22回 「北海道に来て思うこと」

トヨタ自動車北海道株式会社 取締役社長 田中 義克

このコラムの投稿の依頼を受け、書かねばならないと思いつつ、正直他の忙しさにかまけて忘れていた(?)こともあり、今慌てて書いている所であります。タイトルは「読書雑感」となっていますが、よく「趣味は?」と聞かれて必ず「読書」と答える割には最近あまり本を読んでいないなあと反省しています。私の読書は乱読で特にどのジャンルという訳でなく、ビジネス書、小説(長編・短編・歴史物・推理物)から漫画までよく言えば幅広く、要は行き当たりばったりのいい加減な読書であります。ですが今も本屋が好きで時間があると本屋へ行って立ち読みをすることが多く、ストレス解消にもなっており、そういった意味では「読書」ではなく「本屋に行くこと」が趣味かもしれません。

そこで今回は私が今まで読んだ本の中で人生や考え方に影響を受けたひとつについて述べ、また折角ですので愛知県出身の私がこの地、北海道に来て約1年半経ち、ぜひ北海道の若い人達にお願いしたい、期待することを述べたいと思います。

影響を受けた、感動した本のひとつに五木寛之の「青春の門」があります。読んだのは残念ながら私の人生の中で少し遅く大学院修士課程の時で「筑豊編・自立編・放浪編」くらいまでを一気に読み、特におもしろかったと記憶しています。「少し遅く」と書いたのはもし高校時代に読んでいたならば、その後の生き方にもっと大きな影響を与えたと思うからです。ご存知のように「青春の門」の舞台は九州の筑豊地方で男っぽい気質の中で主人公伊吹信介が成長してゆく過程を描いたものです。詳しくは覚えていませんが、信介が大学を目指し故郷を後にして東京へほとんどお金も持たずに上京し、野宿同然の生活をしながら早稲田大学に通いはじめます。そこで社会の矛盾を感じ、しかし東京という新しい世界を知り悩みながら同じ演劇部の仲間と東京を離れ、北海道函館に行きそこでまた港の暴力に対して戦うといった内容でなかったかと思います。特にこの中で彼が故郷の筑豊を去り新天地を求めて東京に行き、また挫折しながらも悩み正しいと思うことに突き進んでいく所に共感した覚えがあります。私がもし高校の時にこの本を読んでいたら大学も東京か少なくとも出身の愛知県以外の所に行っていたのではないかと思ったものでした。

今私は計らずもこの北海道に来ています。それも生まれて初めての県外の生活そして遠い北海道、また50代にして初めての経験です。現在1年半経過して思うことは、故郷の良さには大きなものがありますが、他の地域、外国など未知の所に挑戦してみることが大事だということです。特に若い時はいろんなことも柔軟に受け入れることが出来ます。50代にしてそう思うのですから若い皆さんはこれからの日本の置かれている状況を考えれば、グローバルに仕事や生活をしていくことが求められると思います。トヨタでも若い人が3年程の海外駐在で大きく仕事のやり方が変わったり、自信を持ったりするのをよく見ます。北海道の人はこの地が住みやすい、自然が豊か、知り合いがいるなどの理由であまり離れたがらないと聞きます。北海道発の全国ブランド、企業なども少ないのが現状です。北海道に住んでいる人は何代か前に道外から開拓者精神を持ってこの地に来た人の子孫です。かの有名な札幌農学校のクラーク先生も「Boys be ambitious!」と言われました。「少年よ。大志を抱け!」と訳されることが多いですが、あえて私は「青年たちよ。野心家であれ!」という方が好きです。北海道には豊かな自然、厚い仲間意識などありますが、ぜひこの北海道をベースにして道外や海外に打って出て仕事をする、事業を起こす、製品・商品を売り込む、など夢を持って生きていって欲しいと思います。

私が仕事をしているトヨタ自動車北海道も今は世界を相手に製品の約80%を海外に出荷しています。これからの日本という国を考えると少子化、高齢化などでどうしても海外での仕事で成り立っていくようにするしかないと思います。ぜひ若い皆さんに若い時こそ、かつての開拓者精神を持って今こそ北海道発で全国、海外に出て活躍するまた情報発信をするよう願います。そして出て行ってもし挫折やくじけそうになった時にはこの故郷北海道はやさしく癒し、迎えてくれる大地でもあります。ヨーロッパに対しての新天地アメリカの如く、北海道は土地の広さ、人材、自然(水、食料、景色)など日本をリードする可能性を秘めている所です。私もこの地に来て、この地を知ってその良さを実感しました。一緒になって北海道の発展、そして21世紀は環境の世紀と言われていますが、21世紀は北海道が担う世紀となるようがんばっていきましょう。

2008年2月20日 脱稿

トヨタ自動車北海道(株) http://www.tmh.co.jp/

■筆者プロフィール
田中 義克 [トヨタ自動車北海道株式会社 取締役社長]
氏  名 田中 義克(たなか よしかつ)
生年月日 昭和26年12月13日
■学歴    
昭和51年 3 月 名古屋大学大学院工学研究科修士課程 修了
■職歴    
昭和51年 4 月 トヨタ自動車工業株式会社入社
昭和51年11月 同社 第4生産技術部
昭和57年 7 月 トヨタ自動車株式会社に社名変更
平成 2 年 2 月 同社 衣浦工場 第1 機械部
平成 5 年 1 月 同社 第 5 生技部
平成 7 年 1 月 同社 衣浦工場 鋳鍛造部
平成 9 年 6 月 同社 衣浦工場 鋳鍛造部長
平成13年 1 月 同社 衣浦工場 第 2 機械部長
平成13年 1 月 同社 衣浦工場 工務部長
平成16年 6 月 同社 常務役員
平成16年 6 月 同社 三好工場工場長 衣浦工場工場長
平成17年 6 月 同社 三好工場工場長 衣浦工場工場長 明知工場工場長
平成18年 6 月 トヨタ自動車北海道株式会社 取締役社長 就任

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