読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラム、エッセイです。
第26回「読書雑感」は(株)東急百貨店執行役員札幌店長、楠野創さんの「本はいつも自分の教科書」をお届けいたします。物事を見通す力やイマジネーションの海を自由に泳ぎまわる力、漆黒の夜空にきらめく星の物語に無限の夢を描くことの出来る力は一体どこからやってくるのでしょうか?その答えの一つが今回の楠野さんの原稿の中にあります。長い人生の時間を経て理解することかもしれませんが、学校で学ぶ“教科書”以外にも大切な教科書があることを。それは人それぞれに違いがありますが、大切な教科書に“読書”をあげる人が多いようです。幼き頃に夢中で読んださまざまな本は、大人になってから更に大きな力となって、知らず知らずのうちに生きていく力に変化するのです。数百人の従業員の先頭に立って百貨店を率いる筆者の楠野さんは、きっと言い知れぬ重圧や不安に耐えて、日々堂々と自信を持って決断をされていらっしゃる筈です。その力の拠り所の一端が、小気味よい文章に表れています。また、平易な言葉で書き記された今回の原稿には、筆者の誰に対しても飾らない人柄、誰からも親しまれる人柄がうかがえます。どうぞごゆっくりお楽しみください。

■第26回 「 本はいつも自分の教科書 」

株式会社東急百貨店 執行役員札幌店長 楠野 創

百貨店に勤めて33年。何か面白いこと、楽しいこと、素敵なこと、カッコいいこと、美味しいこと、そんなことをいつも追いかけながら・・・それがお客様に提供できたらと・・・でも結局は見つけられず、追いつけずの連続で今日まできた気がします。

そんな時の自分の価値尺度は、やっぱりどこかで子供の頃から今までに読んだ本や見た映画からかなり影響を受けていると思います。

「本はいつでも自分の教科書だったかな?」とランダムに印象に残った本を思い返してみると、小中学生の頃はもっぱら「SF小説」と「推理小説」と「イアン・フレミング(もちろんジェームス・ボンド)」!異星人(今風に言うとエイリアン)に人間が取って代わられる「失われた街」。これは、日常生活の自分の周辺の人々が知らないあいだに人間ではなくなってゆく恐怖感がタップリ。今でもよく覚えている1冊。謎解きの面白さで、勉強そっちのけで読み漁ったアガサ・クリスティー。海外ものと違った日本独特の推理小説で、緊張感と恐怖感があった土屋隆夫。謎解きと社会背景をウーンと唸らせるほど見事に推理小説で表現した松本清張。初めて読んだ「点と線」の重厚さ、小説と映画の両方に感動した「砂の器」。モデルガンのワルサーPPKやベレッタを学生服の脇の下に吊り、もし交通事故にあって病院に運ばれて見つかったらどうしよう?などと馬鹿なことを考えながらジェイムズ・ボンドに憧れていた時期。格好良い着こなしや身のこなし、食事の仕方やお酒の飲み方を勉強させられました。(女性との付合いは全く無理でした)

学生時代は、もっぱら角川から出ていた分厚い雑誌「野生時代」を毎月読みきるのが精一杯だった中で石川達三の「傷だらけの山河」戦後の荒れた社会から高度成長時代を経て発展してゆく企業集団。開発の名のもとに切り捨てられてゆく様々な矛盾感。日本の戦後社会の発展にこんな一面があったんだなぁと、田中角栄の「日本列島改造論」と共に比較しながら読んだものです。

モデルとなっている東急電鉄五島慶太と西武鉄道堤康次郎。よもや自分が東急グループの一角のサラリーマンになるとは思わず・・・。

社会人になってからは司馬遼太郎の「坂の上の雲」。秋山兄弟の何てかっこよく、バルチック艦隊に勝つ場面は映画を見ている様に興奮したものです。同じく司馬遼太郎の「坂本龍馬」幕末から明治維新にかけての奇跡的に存在した坂本龍馬。同時にその周りに連なるこれもまた奇跡的に優秀な逸材の人たち。とにかく司馬遼を読むと、日本人にはこんな素晴らしいDNAがあるんだからもっと自信を持って生きるべし、と励まされる気がします。

開高健もよく読みました。世界中の大物を釣り食い歩く「オーパ」。自分が釣りを始めるきっかけになった理由の一つです。酒と食へここまで拘るかっと驚いてしまう「孔雀の舌」。 そして絶筆になった「珠玉」。いずれもまったく違うジャンルに見えるけれど、あの丸顔で人懐っこい笑顔や、メタボな体型からは想像できないこだわりや表現の繊細さは天才的で圧倒されました。

魏の曹操、呉の孫権、蜀の劉備の三国が覇権を争う壮大な物語の三国志。最近の映画「レッドクリフ」を見て読んだ人も多いでしょう。単なる中国の戦記物かと思って読み進むうちに、すっかりのめり込んでしまいました。競争を生き抜く知恵や組織を引っ張るリーダーシップの参考にとよく言われますが、その通りです。

思いつくままにパラパラと書いてしまいましたが、間違いなく言えるのが『この人たちが僕の教科書でありバイブルだ』という事です。

自分では気が付かない色々な見方や考え方を教えてくれる、経験できない事を仮想経験させてくれる、読んだ活字を頭の中で構想したり映像化したり。

とにかく本は楽しいものです。ぜひ皆さんも沢山の本を・・・。

きっと役にたちますよ。

2008年12月27日 脱稿

■(株)東急百貨店札幌店 URL http://www.tokyu-dept.co.jp/sapporo/

■筆者プロフィール
楠野 創 [株式会社東急百貨店 執行役員札幌店長]
氏  名 楠野 創(くすの はじめ)
生年月日 昭和27年10月25日
出身地 札幌市
■最終学歴    
昭和 51年 3月
早稲田大学商学部卒業
■主要経歴    
昭和 51年 4月
株式会社さっぽろ東急百貨店 入社
昭和 53年 8月
株式会社東急百貨店と合併
昭和 59年 4月
株式会社東急百貨店札幌店 販売促進部
販売企画マネジャー
平成 2年 5月
株式会社東急百貨店札幌店 販売促進部
催事企画統括マネジャー
平成 3年 4月
株式会社東急百貨店札幌店 商品企画部
道産品開発統括マネジャー
平成 4年 9月
株式会社東急百貨店札幌店 販売促進部
販売企画統括マネジャー
平成 6年 2月
株式会社東急百貨店札幌店 営業部
家具・家庭用品統括マネジャー
平成 7年 2月
株式会社東急百貨店札幌店 営業部
紳士服・洋品統括マネジャー
平成 12年 4月
株式会社東急百貨店札幌店 営業部
食料品統括マネジャー
平成 15年 2月
株式会社東急百貨店札幌店 営業部長
平成 16年 4月
株式会社東急百貨店札幌店 営業推進部長
平成 18年 4月
株式会社東急百貨店 札幌店長
平成 19年 4月
株式会社東急百貨店 取締役札幌店長
平成 20年 4月
株式会社東急百貨店 執行役員札幌店長

上へ移動↑