読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラム、エッセイです。
第28回「読書雑感」は、北海道銀行から出向し夕張市の再生に愛と情熱を傾ける千葉敬司さんの『「組織」と「人」そのもの』をお届けいたします。夕張市が財政再建の途についた直後、真っ先にその支援として人材を送り込んだ北海道銀行。その重要な役割、責務を担って夕張市に赴いたのが筆者千葉さんでした。筆者が感じた現場は戸惑いと疑問がわいてくるものでした。だが時間の経過とともに多くの意欲ある職員の結束と努力そして知恵の活用が今、根付きつつあるのです。厳しい言葉の裏側に筆者のあたたかい思いと再生への切なる願いが込められています。またご自身が就職に挑んだ“その時”など、これまでの筆者の価値基準の一端が述べられております。どうぞお楽しみに。

■第28回 『 「組織」と「人」そのもの 』

夕張市地域再生推進室主幹(北海道銀行地域振興部公務室付上席調査役) 千葉 敬司

北海道銀行に勤め、早くも足掛け20年、そのような中で、2年前から財政破綻した夕張市に、再建のお手伝いをすべく市役所職員として出向しています。

銀行に長年勤めている間に、2年間という短い間ではありますが、行政機関へ出向して異業種異文化の環境の中で仕事ができるのは貴重な機会だと考えております。

銀行と市役所という、仕事の全く違う分野にいきなりポンと配属されて、今でも仕事の進め方、考え方の違いに戸惑う場面もありますが、しかし、その中でも銀行と行政機関で唯一共通点があります。それはモノを作っていない、製造業ではない、ということです。即ち、あえて商品というならば「人」そのものだということです。

どこの業種でも組織でも人材の要素は重要なキーポイントでありますが、例えば北海道銀行では人材のことを「人財」と表現しているように、私も「組織は人で決まる」ということを、座右の銘にしています。

その象徴的な例が、残念ながら反面教師としてですが、奇しくも「破綻」という事象のあった出向中の夕張市役所の組織で実感しました。

つまり私は、夕張市の財政破綻は、財政的な理由というより、それを作った組織が原因の「人災」であることに他ならないと考えております。

破綻前の夕張市役所は、職員数が一般的な行政機関の標準規模から比較しても2倍近く多く、業務遂行においても極めて帰納法的で、上から下への一方的な指揮命令系統に頼ることが目立っていました。そのせいか今でも、各自が関っている仕事をクロージングまでやり通す責任感が希薄だったり、結論を与えられないと自ら動けなかったりと、よく考えて仕事をするという認識が弱いなと感じました。

また、組織としてのチームワークの意識も薄く、所謂「属人的」な組織です。周囲の人がやっている仕事には関心や興味をあまり持たないし、ひいては一部の管理職層が自分の部下に対する関与の少ないことが起因して、担当者が周囲の気づかないうちに問題を抱えて「沈没」しているような気の毒なことも多く、対内的にも対外的にも配慮が行き亘らないのです。

特に、組織の中枢である管理職層の中に、一部とはいえ、肩書きに求められている役割を認識していない、自覚させられていない職員が多いということです。例えば市役所内で各課を跨いで横断的かつ前向きな地域振興の話を進めるときでも、未だに自分の権益を守る発言に終始するような、周囲から信頼される仕事をした上で、義務を果たしてから権利を主張する、という基本的なことが欠けている言動がよく目に付きます。ゼロから始めなければならないことを、行動や言動に表している人は何人いるのかと、感じる場面です。

夕張市は、353億円という赤字を18年間に亘り解消してゆかねばならないのですが、夕張市の財政再建計画は、単なる借金返済計画だけであってはならず、まちの再生も実現させる計画でなくてはなりません。夕張を作り直そうと使命感に燃えて感心させられる職員は大勢いますが、所謂破綻を受け入れていない職員も少なからずいるということです。人が育つ職場環境を定着させることが早急の課題であることは言うまでもありません。

私の夕張市への出向期間がこの5月迄ですので、この原稿が公開される頃には、また元の北海道銀行へ戻っていることと思いますが、今後も厳しい環境にひるむことなく立ち向かい、粘り強く再生の道を歩む夕張市であって欲しいと心から願っています。道産子ならばきっと乗り越えられるはずです。

ところで、大学生の皆さんがこれから活躍される中で、当面、自分の決断が絶対的に必要とされる大きな場面があります。それは、就職と結婚です。

今までの大事な局面とかでは、両親や先生などに相談をしたり頼りにすることが多かったのではないでしょうか。しかし、この2つは他人の判断任せには決してできない、自分が一番頼りになることですし、これから自分と一生を共にするかけがえのないことからも、逆に自分にしか責任を求められないことでしょう。

就職に関してですが、かれこれ20年前になる私の就職活動は、周囲の友人達と考え方が違っていて、その時は学生がいくつも企業さんからの内定を取るような所謂「売り手市場」でした。しかし、当時私は変に正義感が強かったせいか(今もそう思います)、勤める会社は1社なのだから内定を折角出してくれた何社もの企業さんを裏切ることに、私は罪の意識を感じざるを得ませんでした。そんな迷いと、業種や職種の絞り込みの迷いも相まって、周囲の友人たちの様子とは裏腹に、決めかねる自分自身に焦りを募らせていました。

そんな時、「たとえ自分の好きな業種に就職しても、もし周囲と馬が合わなかったら折角の仕事も面白くなくなるし、逆に多少の困難があってもみんなで協力し合えるチームワークのとれる組織にいたら、そんなことも乗り越えられるのではないか」と考えて、就職活動してお会いした人事面接担当者の中で、「この人と一緒に仕事をしてみたい!」と一番感じる企業さんにお世話になろうと決心しました。

それが今、私の勤め先である北海道銀行です。

つまり、各種のデータや資料ではなく、「人」そのもので決心したということです。当時の友人たちからは奇特な奴だと面白がられましたが、こと私に関しては、この決断は若かりし時ながらも今でも後悔はしていません。

また逆に今では、一緒に仕事をしてみたいと思われるような社会人、組織人の姿を自分の理想としています。

僭越ながら、今まで「人」「人材」の大切さを申し上げましたが、特にこれからの若い皆さんには、さまざまな場面や角度から自分の生き方、あり方を考える機会が出てくるでしょうし、敢えて積極的に考えて自分自身を成長させてほしいと思います。

そのように思索を巡らせるときに、参考となればと思う本を紹介させていただきます。

「男の品格〜気高く、そして潔く」川北義則著(発行:PHP研究所)

この本は、遊び心やゆとり心も交えた上で、仕事、家庭、恋愛、趣味、美学、人生観などをテーマに男の生き方、あり方というものにアプローチしている内容です。煮詰まったときにバイブル的に読んでも楽しめるのではないでしょうか。私の蔵書の一冊です。もちろん、題名の通り男性読者限定本(?)ではありません。女性の方も人生観を豊かに向上させる参考になるものと確信しております。

例えば、一部を引用紹介させていただきますと、

「なんだかんだと理屈を並べて動かない男より、なんにでも、よしっと飛び出していく男のほうが、失敗も多いが魅力的だ。やってみるのは学ぶのに勝っている。」

あくまでバランス感覚も前提の言葉ではありますが、結果ではなくプロセスにその人の生き様が表れる、格好ではなく中身が問われていることを忘れずに、と伝えられている一節でした。学生、社会人に拘らず、どんな時代にも大切にしたい考え方のひとつだと思います。

2009年3月11日 脱稿

■夕張市 http://www.city.yubari.lg.jp/
■北海道銀行 http://www.hokkaidobank.co.jp/
■筆者プロフィール
千葉敬司   [夕張市地域再生推進室主幹
(北海道銀行地域振興部公務室付上席調査役)]
氏  名 千葉敬司(ちば たかし)
生年月日 昭和39年5月3日
出身地 札幌市
学歴(最終) 昭和63年3月 北海道大学 経済学部経営学科 卒業
■主要経歴    
昭和 63年 4月
(株)北海道銀行入行と同時に札幌駅前支店配属
平成 4年 7月
(株)北海道銀行新さっぽろ支店
平成 9年 10月
(株)北海道銀行釧路支店
平成 12年 7月
(株)北海道銀行輪西支店 支店長代理
平成 14年 10月
(株)北海道銀行審査部審査役
平成 15年 4月
(株)北海道銀行中央市場支店 支店長代理
平成 19年 6月
夕張市地域再生推進室主幹
(北海道銀行地域振興部公務室付上席調査役)
※平成21年5月末迄夕張市役所へ出向

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