読書雑感

このコラムは、企業経営者、団体のリーダーなどの方々にご登場をいただき、読書を基本軸に仕事や生活、文化、芸術、経済、哲学、を語って頂くコラム、エッセイです。
第31回「読書雑感」は、(株)ジュリアジャパン相談役中宮希史さんの「海と世界と人間と」をお届けいたします。読者の皆さんは『方丈記』の一節をご存知のことと思います。「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。」鎌倉時代に和漢混淆文で書かれた鴨長明の作品です。自然界と自己の両方に共通する無常観を表し、よく知られた書き出しの文学作品です。今回の筆者中宮さんが描く「海と世界と人間と」では、自然の摂理で変わりゆく自然界の変化ではなく、人為的行為で変わらざるを得ない自然環境破壊への不安と愛しいばかりの哀惜が流麗な文体で綴られております。その映像的文章は、あたかもその場にいるような錯覚さえ覚えるもので“かけがえのない地球”への想いが一層大きく広がってくるのです。はからずも沖縄・宜野湾市に支社を置くことになってから、筆者はそれまでの自分と違う、新たな自分が生まれるのを感じたようです。前編・後編の2回シリーズでお届けいたします。自然と社会と自分との関わりを考える。さあ、どうぞお楽しみに。

■第31回 「 海と世界と人間と 」 前編

(株)ジュリアジャパン 相談役 中宮 希史

甘い風のささやきに耳を傾けると潮騒が聞こえてきた。私は浜辺で転寝(うたたね)をしていたが、南国の容赦ない紫外線に負けて思わず上半身を起こしてしまった。太陽が東シナ海に傾く昼下がりの絵画的情景はヤシの木と磯の香りに満ち、大海原に漂う小島や珊瑚礁が退屈な水平線のキャンバスに緊張感を与えていた。潮が満ちるに従って海岸線に打ち寄せる小波が、白砂を浸蝕しながら私の足元まで迫っていた。

今回コラムのタイトルでもお分かりと思いますが、人間と海、そして世界との関わりがテーマです。古来よりユーラシア大陸にはシルクロードがあるように、海洋にも海のシルクロードと呼ぶに相応しい交易路が、先人達の手によって開拓されてきました。たとえば国の威信と莫大な富を求めて、未知の新大陸発見の航海に挑戦した冒険家達。彼等がもたらした大航海時代の冒険活劇に、胸躍らせた諸君も少なからずいたのではないでしょうか。あるいは東南アジアの海人が新天地を求めて、島伝いに南下しながら楽園にたどり着いた海洋民族の伝説や、より学術的な立場で海洋史を研究した書籍など枚挙に暇はありません。

私が海洋の世界に興味を持ったのは、妻と観光で訪れたメキシコ、ユカタン半島に位置するカリブ海で、シュノーケルツアーに参加したのが始まりでした。水中の世界がこれほど変化に富み、珊瑚やカラフルであでやかな魚達の瑞々しい姿に魅せられたからでした。この奇跡とも呼べる水中マジックに取りつかれた私は、スクーバダイビングを始めることで、さらなる未知の世界を求めて冒険の旅を続けることになったのです。その旅先で出会った地元の人々との交流やお国柄など、ダイビングのエピソードもからめて話を進めたいと思います。

少しでも水中の世界に興味を持っていただくために、世界でも有名なダイビングポイントを大雑把ですがご紹介いたします。国内では数多いダイビングスポットの中でも群を抜いて人気があるのは沖縄諸島です。世界の全てが沖縄にあるといわれるほど、バラエティーに富んだ豊かな海が、ダイバーの冒険心をあおるのでしょう。サイパンからパラオに至るミクロネシア諸島も、世界屈指の透明度を誇る素晴らしい水中世界を披露してくれます。さらに透明度はあまり期待できませんが、魚の量で他を寄せ付けない東南アジア方面も見逃せません。インド洋の真珠と呼ばれるモルジブ環礁はダイバーの憧れであり、一度は潜りたい世界最強のポイントだといわれています。さらに西に足を伸ばせばアラビア半島とアフリカ大陸が海峡を挟んで対峙しているのですが、この海域は紅海と呼ばれ世界中のダイバーがシナイ半島の先端にあるシャルム・エルシェイクに集まります。その他にもカリブの海賊で有名なカリブ海やオーストラリアのグレートバリアリーフなどなど、奇跡の海と呼ぶに相応しい水域が地球上にはたくさん存在します。そのかけがえのない海域が地球の温暖化による影響で危機に瀕していると、たびたび耳にする機会が増えてきました。遠い将来、天変地異や自然災害で生命や地球自体が滅びる可能性は十分にありきだと考えますが、仮に人間が引き起こした社会現象やエゴが地球滅亡に拍車をかけているとしたら、人類は地球に存在する全ての生命に対して何と詫びればよいのでしょうか。また私は海外の行く先々で、欧米の先進国が残したグローバリゼーションという得体の知れない怪物の爪痕にも遭遇することになりました。政治の話題などには極力触れませんが、私が国内や海外で見て肌で感じた素朴な疑問を、地球環境のフィルターを通すことで問題の核心に少しでも近づけたら幸いであると感じています。

2010年1月14日 脱稿

■筆者勤務先:(株)ジュリアジャパン
http://www.juliajapan.co.jp/

=次回、後編に続く。どうぞお楽しみに!=

■筆者プロフィール
中宮希史   [株式会社ジュリアジャパン 相談役]
氏  名 中宮 希史(なかみや まれし)
■経歴    
1948年 北海道札幌生まれ。
1972年 東京造形大学絵画科卒業。
1972年 株式会社ジャパングラフィックスにイラストレーターとして入社。
1978年 30歳を機に札幌にUターンを決め込み、株式会社北海道たきに入社、主に広告のイラストを手掛ける。
1986年 有限会社グラフィックアソシエーションを設立、デザイン全般の業務にあたる。
1989年 東京でイラストの個展を開催するが、以降も含めあまり話題にはならなかった。
1994年 株式会社ジュリアジャパンを設立して3Dアニメーションやゲームソフトを中心とした業務に携わる。
2005年 訳あって沖縄に支社を創設してしまう。
2009年 社長職を辞して会長に収まり現在にいたる。
     
通常業務の側ら学校法人芸術デザイン専門学校講師や卒業制作審査員を務める。その他、趣味は多数。

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