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「五刻豊穣記」「3ミリメートルの悦楽」に続く、さかざき君の新シリーズ3がスタートです。高度に発展してきた現代社会のなかで、ともすれば軽視されそうな人と心の有り方を最も大切に考える筆者からの「考える手紙」これまで同様、今シリーズのテーマです。テクノロジーの長足の進歩によって、巨大な恐竜のようになってしまった文化・文明をもう一度仔細に眺め、人と心を考えてみたいと筆者、阪崎さんは考えています。悩みながらもしっかりと前進する高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日の自分を考える”きっかけになればと思います。隔月掲載の6回シリーズ、どうぞお楽しみに。

恐竜の虫めがね

■4.はるかな目標に向かって〜ある若者の志〜   さかざき けんじろう

阪崎 健治朗

ちょうど昨年の夏の終わりころ、ぼくの授業を取っていたY君が話したいことがある、というので近くの喫茶店で会った。日頃あまり話をしない学生だが、真面目に授業を受けていた印象だけが残っている程度の学生だった。

その彼が「ちょっと大学を休んでぶらりと10日間ほど海外に行ってきます」といとも簡単に言ってのけるのである。「おやおや、どこにいくの?」と尋ねると、「タイです。タイのパンガン島です」との返事である。「そこでなにかあるの?」と更に聞くと、「パンガン島に住む人たちがいろんなイベントを企画し、世界中から訪れる多数の老若男女にニューミュージックやポップス、それにオールディズなジャズもあり、いろんな分野の音楽を聞かせてくれるんです。でぼくがもっとも関心のあるプログラムもあるので聴きにいこうと思ったんです。それに世界中の人たちと話したり交流する機会もあるので」とキラキラ輝いた目で話してくれた。

パンガン島はタイランド湾に面した古くからある島で、飛行機か船を利用するほどの距離にある。人口約1万人がその島に住み、島の中心には山あり滝ありで保養地としても名の知れたとても美しい島らしい。毎月満月の夜に「フルムーンパーティ」と称するお祭りを楽しみにしているようで、いつの間にか世界中からいろんな人が集まるので親切なもてなしと様々な音楽が評判になってファンが年々増えているそうだ。彼がその島に行く大きな理由は、フルにミュージックを聴くためだけではなく、見知らぬ人々との会話を楽しみたいからだと話してくれた。

帰って来た彼に再び会い、楽しかった出来事を聞かせてもらった。

「わずか10日間の滞在だったが、言葉は通じなくても音楽という共通の関心事が人間の絆を作っていくものだし、また地元の人々の温かいホスピタリティは日本では感じられない優しさのあることを教えられました」と、まだ少しばかり大きな感動が残っているような話しぶりだった。

彼は将来DJになることを考えており、今の若者たちの間でヒットしている曲を分析してよい音楽を残すことを研究してみたい、そして世界中のニューミュージックを紹介したい、という夢を持っているのである。ぼくが今まで「君の夢は?」と尋ねた学生の中では異色の回答でありにわかには意味が理解できないものだった。

ちなみに、この話をぼくが毎週出ているFM放送にゲストとして出演して話してくれたのだが、そのとき紹介してくれた曲は、ファットボーイ・スリム「ライトヒア・ライトナウ」、インフェクテッド・マッシュルーム「ビカミング・イン・セイン」、ダフトパンク「ワンモアタイム」、「デジタル・ラブ」、「トゥー・ロング」だった。アーティスト名と曲名が合っているのか、ぼくには分からない。皆さんはこのうちどれだけの曲をご存知だろうか。

間もなくこの3月学窓を巣立つY君。パンガン島へは、これから10年先の目標の準備を兼ねて行ったという。実現するのに例え10年かかろうとも目標を見失わずに歩みたいと話してくれた。どのように歩んで行くのだろうと想像する。いつかまた10年の後、是非会ってみたいと思う。70歳を越したシニアのぼくに20歳を少し越した青年が自分の目標を真剣に語ってくれる内容に、ぼくが一所懸命に理解しようとしている姿を、彼に解ってもらえただろうか。

あのパンガン島の海面に映る満月の渚でお酒を酌み交わしながら国境を越えて対話を楽しむなんて想像するだけでもロマンチックな気分に誘われる。ゆったりとした波の音を聞きながら、渚で遊ぶ。ちょっと想像するだけでなんとも素敵だなあと思う。

「成田空港に着いて改めて日本人を見たら、どこか元気がなくうつむき加減の暗い印象を受けた」と話しながらも、「同世代の中には怠惰で批判を受けるものも多いが、ぼくのように前に向かって歩こうとしている若者が多くいることもわかってもらえるといいですね」と、まるで我われ大人に釘をさすような言葉に、ぼくはドキッとした。本当にそうだと思う。ぼくは成熟していくY君のことをいつまでも心に留め、どんな応援の仕方があるのだろうか、と考え続けていこうと思う。

阪崎健治朗HP http://www16.ocn.ne.jp/~com212/

■筆者プロフィール
阪崎 健治朗 SAKAZAKI KENJIROU
生年月日: 1935年(昭和10) 12月25日
学歴: 日本大学文理学部英文科(通信)卒業
職歴: 中学校教諭を経て、神戸・北九州・富山・日本YMCA同盟北海道の各YMCA勤務。その他、大学の講師として「集団組織論」、「基礎作業学レクリエーション演習」、「国際ボランティア論」、「国際関係論・国際交流論」等を担当。
社会活歴: 人間講座主宰(ロビンソンデパート)
研修歴: 感受性訓練(JICE)、交流分析(TAT)受講。
著作: 「職業と人間形成」(共著)(日本YMCA同盟出版)
「神戸とYMCA百年」(神戸YMCA)
「ボランティア論」(青葉書店)
「国債理解 重要基礎用語300」(共著)(明治図書)

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