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さかざき君の新シリーズ5『たゆたえど沈まず』がいよいよ連載をスタートいたしました。ご自身の人生を丹念に綴ったシリーズ第1作目の『五刻豊穣記』から今シリーズまで、たえず弱者や敗者、権力に翻弄される人々へ温かいまなざしを向け、未来への展望や希望の示唆と深いいたわりの心を綴ってこられました。今シリーズの『たゆたえど沈まず』は、隣国の干渉と覇権に明け暮れたヨーロッパ史、その中で、特にパリ市民の権力に対する人民の強靭な意思を示すものとして家の壁に記されている言葉だということです。巨大な力に蹂躙されてきた人々の苦境の中にあっても、伸びやかで決して諦めない鋼のような強い意思をこの言葉に感じます。また、今シリーズもこれまで同様「考える手紙」がテーマです。どうか皆さんもご一緒に考えていただきたいと思います。「考える。行動する。また考える」、そのきっかけになれば大変嬉しく思います。隔月掲載の6回シリーズ、どうぞお楽しみに。

たゆたえど沈まず

■1.現実の厳しさを受けて立つ さかざき けんじろう

阪崎 健治朗

僕が2年ほど前までお世話になった大学の卒業生数名から時々連絡をもらい会ったりしているのだが、その中の幾人かは卒業してもう2年にもなろうとしているのに、未だに就職先が決まっていません。そのうちの一人はつい最近ようやく中堅の薬品会社に決まり、朝6時には家を出るそうで、さぞ疲れがたまっているのではと余計な心配をしてしまいます。中には就職先が決まらないので、待機の意味で大学院に進学する学生もいるとある教授は話してくれました。

それを物語るように平成21年11月22日付の朝日新聞の一面に「大学4年生 終わりなき就活」と題しデータを示して厳しい現実が報道されていました。中には50社、100社と受けて合格通知を手にできない学生は「もう疲れました」と漏らし、しばらく就職活動を中断しているそうです。だいたい大学3年生で内定するのが今までの慣例のようでしたが、卒業してもなお、仕事探しをしなければならない学生は、ときには「自分は社会的に認められない存在なのか」と自信を無くし、嘆きのため息が聞こえそうな今の就職戦線です。

文部科学、厚生労働省の両者の発表では、平成21年10月1日時点の内定率は、大学が62.5%、短大が29.0%。政府の中枢は「想像を絶するくらい厳しい。就職氷河期に匹敵するか、それより厳しいと予想」しているようです。すっかり冷え切った経済・産業界の底冷えや先の見通しのなさ、経営戦略の希薄さなど、企業改善は人員減少によって保つだけという、知力の脆弱さを示しているようにも思えてなりません。

学生たちはもちろん就職するためにだけで大学にいくわけではないでしょうが、それでも大学で得た知識や技能を社会や企業で生かしたいと夢を抱いて学んだ4年間を無駄にはしたくないでしょう。

企業は「優秀な学生」を採用したいというのが眼目でしょうが、それでは優秀とはどのような中味をもった人をいうのでしょうか。人間を見る目はどこにおかれているのでしょうか。その学生の基本的な人間観や社会観でしょうか。それとも会社にどれほど貢献できるか、どれほどの即戦力かを試そうとする目線で選び取っているのでしょうか。

僕が初めて就職した貿易会社は、何を持って採用したのか未だにわかりませんが、出社当日からまるで個人いびりのような態度をとった社長の言動は、今もって忘れる事はできません。僕はもう初日から間違った場に迷い込んだと思い、自分の人間性が歪むと判断して3ヶ月で退社しました。その社長が取ったリーダーシップは、厳しさよりも僕に対する冷たさだけが目立つ人でした。その後しばらくして採用された中学校は、僕の給与など待遇は最低でしたが、教育に対する教師たちの姿勢には目をみはるものがありました。生徒への愛情、優しさ、教育の研究、それらは彼らの信仰と生活から生み出されていたようです。揺るぎない自信と行動に僕は大きな感銘を受けたものです。校長は口数も少なく目立たない人でした。しかしそんな素晴らしい環境の時に限って、僕は病のために長期病院生活をし、とうとう自然に学校は退職扱いになっていました。

病から生還できた喜びはとても大きなものでしたが、一方、30歳を前にして就職先がないというのはその後の人生に不安と焦燥感を感じました。それでもあきらめませんでした。1960年代初頭、戦後の復興をあゆむ日本は経済力をつけて未来に大きな希望を抱かせるに十分な生活の変化を感じさせてくれた時代の到来でした。そうした最中に新しい職場を与えられました。それが我が生涯の職場になったのです。待つこともよし、でした。でも高度成長の道に浮かれた日本は儲け主義が先行し、環境の悪化や汚職などに拍車をかけ、奇怪な病を発生させていく時代の表情を見せていました。経済・産業界の良心は失われ、未来に向けて冷静な経営理念を打ちたてることもなく今日に至ったのです。有名大学を出たレッテルだけで採用した多くの企業は、本質的な社会貢献を企業のもう一つの柱とする経営を目指してきたか、いささか疑問です。

民主党の菅副総理はこの氷河期はしばらく続くかもしれないと発言しておりましたが、ほとんどの企業は採用を手控え、自己防衛に懸命です。貴重な人材である若者の将来への道は誰が切り拓いていくのでしょうか。自分で切り拓け、という声もあるでしょう。又自分は超一流の企業に就職して生涯安定した生活を送りたいと思い続けている学生もいるでしょう。しかし大切なことはどこに就職するかというブランドではなく、どこに就職しようと、何を成したいのか、どんな人物になろうと思い描くのかが、これからは大切だと思うのです。

政治の世界や経済界、そして教育界も多くの失策を犯してきました。私たちも同じように歪んだ社会に迎合し、それをよしとして受け入れてきたのです。すべてをリセットすることはできないまでも、人間が犯した過ちですから人間が正していく社会に変えていかなければなりません。人の行く道は、決して順風万帆ばかりではありません。出帆してしまったら難破しないように巧みに艪を操りながら荒波でも乗り越えていかなければなりません。満を持し出て行く心の準備だけは怠らないようにしなければならないでしょう。暗い夜が明けると光り輝くまぶしい太陽を見ることができます。それが希望へと繋がるのだと信じて日々天に顔を向けて歩んでいただきたいと願っています。

阪崎健治朗HP http://www16.ocn.ne.jp/~com212/

■筆者プロフィール
阪崎 健治朗 SAKAZAKI KENJIROU
生年月日: 1935年(昭和10) 12月25日
学歴: 日本大学文理学部英文科(通信)卒業
職歴: 中学校教諭を経て、神戸・北九州・富山・日本YMCA同盟北海道の各YMCA勤務。その他、大学の講師として「集団組織論」、「基礎作業学レクリエーション演習」、「国際ボランティア論」、「国際関係論・国際交流論」等を担当。
社会活歴: 人間講座主宰(ロビンソンデパート)
研修歴: 感受性訓練(JICE)、交流分析(TAT)受講。
著作: 「職業と人間形成」(共著)(日本YMCA同盟出版)
「神戸とYMCA百年」(神戸YMCA)
「ボランティア論」(青葉書店)
「国債理解 重要基礎用語300」(共著)(明治図書)

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