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さかざき君の新シリーズ5『たゆたえど沈まず』がいよいよ連載をスタートいたしました。ご自身の人生を丹念に綴ったシリーズ第1作目の『五刻豊穣記』から今シリーズまで、たえず弱者や敗者、権力に翻弄される人々へ温かいまなざしを向け、未来への展望や希望の示唆と深いいたわりの心を綴ってこられました。今シリーズの『たゆたえど沈まず』は、隣国の干渉と覇権に明け暮れたヨーロッパ史、その中で、特にパリ市民の権力に対する人民の強靭な意思を示すものとして家の壁に記されている言葉だということです。巨大な力に蹂躙されてきた人々の苦境の中にあっても、伸びやかで決して諦めない鋼のような強い意思をこの言葉に感じます。また、今シリーズもこれまで同様「考える手紙」がテーマです。どうか皆さんもご一緒に考えていただきたいと思います。「考える。行動する。また考える」、そのきっかけになれば大変嬉しく思います。隔月掲載の6回シリーズ、どうぞお楽しみに。

たゆたえど沈まず

■4.自分への気付き さかざき けんじろう

阪崎 健治朗

ある夜のこと、深夜3時ごろ突然メールの着信音が鳴った。確かにぐっすりと眠っていたはずなのだが、その音で目が開いてしまった。誰から来たのか…、咄嗟にピント来るものがあったので、それならば朝起きてからゆっくりとメールを見ればいいと思い、また眠りについた。

「先生、夜分にすいません。もし起こしてしまったらすみません。今日例の電話面接を受けました。結果はどうなるかわかりませんが、いろいろ自分なりに足りない部分とかが見えて来ていい経験になりました。とことん自分と向きあって自分には何ができるのかを追求していきたいという意欲が湧いてきました。くさらず前向きに胸を張って生きていけるような人間になりたいです」

真夜中に一心不乱でメールを打っている姿を想像する。何かにとり憑かれたように、あるいはこの時間にフッと開眼したかのような心の高揚を抑えきれず、ぼくにメールをくれたのだと思いました。

彼は大学を卒業して早、三年になるでしょうか。何度か挑戦しているようですが、まだ確証のあるところに就職できずに求め続けているのです。彼はぼくが勤めていた大学の学生で、いつも静かに落ち着いた態度で受講している姿が印象に残っています。

ふとしたキッカケから月に1〜2回程度は会うようになったのです。心の内も話してくれる仲々の好青年です。ぼくが今レギュラーで出ているラジオ放送にも準レギュラーとして出演してもらい大いに助けてくれています。

そんな彼がごく最近ある所に就職したのですが、どうしたことか初めから直属の管理者の目が厳しく、人格を無視するような態度で接し、時には暴力的とも思える言葉を吐かれたりしましたが、ずっと我慢して働き続けていたのでした。しかし彼はこれ以上我慢すると自分の心が荒んで取り戻せないかもしれないと思い、ついに半年程度で退職してしまったのです。泣きながら出張先から電話をかけてくれ、苦渋に満ちた話をしてくれました。

彼は辞めてよかったと後で話してくれました。

働いている人の中にはたとえ耐え切れないことがあっても自分を抑え、我慢して働き続ける人が圧倒的に多いのかもしれませんが、彼のように自分との格闘の末、後の不安を残しながらも見切りをつける人も少なからずいるはずです。

誰かの紹介を受けようともせず、自分でパソコンを使って就職先を探し続けていたのですが、そのうちの1社から連絡があり、先述したように電話面接を受けたのです。

結果はともかく、その1時間にわたる電話は中国大連からであり、かなりの対話をしたのでしょう。その後彼と会って電話面接の詳細を聞きました。日本人が海外で働いていることや電話対話の中から、自分の視野はもっと国際的舞台でと描いていた自分にぴったり当てはまると、まるで覚醒したかのように自分を見出すことが出来たのかもしれません。結果に一喜一憂するのではなく、たとえ時間がかかっても目標を見失わないようにチャレンジしてみたいと、明るく晴れ晴れとした表情の弾んだ声で話してくれました。

今の若者はほとんど日本の未来に期待をしていない。幸せとも感じていない。

職場でも毎日静かな、いわば無言の環境の中でコンピュータばかりを見つめる仕事をしている人の中には、「自分は何のために仕事をしているのだろうか」「役に立っているのだろうか」と悩む層も増加して来ています。そのような環境を少しでも変革し違った形で社会貢献しようという動きが近年見えてきています。今や企業が何らかの形で社会貢献に取組んでいることを求職者は重要な選択肢の中に入れているのです。職場の中にも社会貢献部が出来て社員自身も自分の専門職を世の中に生かしたいとの思いもあって、社内からの応募は増えているそうです。そこには金銭的欲望や出世だけに心を動かされるのではなく、会社から社会へ、そして生きていることに充足したいと求めている社員も増加しているのです。こうした社会の変化は「新成熟社会」に入っていることを示しているのです。

冒頭のメールをくれた若者のように、結果がどうであれ、1時間という電話対話によって何かを見つけられそうだという自分への気付きはとても大きな発見です。

給料さえくれたらどこでもいいという姿勢だけではなく、目的が遠くにあっても近くにあってもそこに向かう気高い姿勢こそが最後に掴み取ることの出来るハッピーな人生なのではと思わされました。我が道を行くという姿勢にぼくは強く心を動かされました。

この文章をご覧いただいている頃には、きっと採用が決まっているはずです。いや、何がなんでも是非そうあって欲しいと、ぼくは心の底から願っています。

参考資料: フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」
中野孝次著『清貧の思想』1992年草思社
北海道立近代美術館「本願時展」展示資料

阪崎健治朗HP http://www16.ocn.ne.jp/~com212/

■筆者プロフィール
阪崎 健治朗 SAKAZAKI KENJIROU
生年月日: 1935年(昭和10) 12月25日
学歴: 日本大学文理学部英文科(通信)卒業
職歴: 中学校教諭を経て、神戸・北九州・富山・日本YMCA同盟北海道の各YMCA勤務。その他、大学の講師として「集団組織論」、「基礎作業学レクリエーション演習」、「国際ボランティア論」、「国際関係論・国際交流論」等を担当。
社会活歴: 人間講座主宰(ロビンソンデパート)
研修歴: 感受性訓練(JICE)、交流分析(TAT)受講。
著作: 「職業と人間形成」(共著)(日本YMCA同盟出版)
「神戸とYMCA百年」(神戸YMCA)
「ボランティア論」(青葉書店)
「国債理解 重要基礎用語300」(共著)(明治図書)

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