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「五匹の猿を退治しろ!」に続き、この新シリーズは月1回でスタート致します。
軽妙洒脱な文体は、更に「うずまさ一刀流?」の鋭さを増し、すっと軽く読めるがズシリと心に響く。日々の暮らしに目を向け考え悩み前進する高校生、大学生、社会人のみなさんを暖かいまなざしで叱咤激励するシリーズです。ここには社会生活をする上でのさまざまな知恵がギッシリと埋まっています。お楽しみに。

犬の遠吠えねずみ鳴き

■巻の3「 豚の木登り 」  うずまさ やすのり

太秦 康紀 さてこのエッセイも巻の3、犬の次は猪だなと猪に関する諺を探したが、これが前回も書いたようにほとんどないのだ。やっと一つ見つけた。
 「猪も七代目には豕(いのこ)になる」
 豕というのは豚のことである。猪も七代くらいで家畜化されて豚になるというわけで、変わらないようでいても、長い年月の間には変化することのたとえだそうだ。
 豚と言えば、「豚もおだてりゃ木に昇る」という諺のようなものがある。これは昔から言い伝えられた諺ではない。いつ誰が言い出したのか、比較的新しい言葉だと思う。もっとも諺だって自然に湧いてきたわけではない。いつか誰かが言い出したことだから、後の時代に誰かが言った言葉でも諺になって行くものがあってもいいわけだ。そう思えば「豚もおだてりゃ・・・」も後発の諺と考えていいのかもしれない。
 NHKの大河ドラマ、「利家とまつ」で、織田信長が「豚もおだてりゃ木に登るというが、猿もおだてれば天に昇るか」と言ったそうだ。この猿は秀吉のことだが、織田信長の時代にこの言葉があった筈がないと批判されているらしい。

 それはさておき、人間は誉められると張り切るものだ。誉められて怒る人はまずいない。そこで「おだてて使う」という言葉が生まれる。
「可愛くば、二つ叱って三つほめ、五つ教えてよき人にせよ」
 お気に入りの言葉を集めたボクのノートにこういうのがあった。誰が言った言葉なのかは書きとめておかなかったので分からない。これは誉めることを、上手に使って人を育てなさいよという、いわば人を育てるコツであろう。人は誰でも誉められると嬉しいから、やる気が出てくるのだ。その上誉め言葉はやる気と同時に自信を人に植え付ける。何か一仕事やったときに、「そんなことやれて当たり前だ。もっと頑張れよ」と言われるのと「おお、やったか、お前も大したもんだ。もっと頑張れよ」と言われるのとでは、同じ「もっと頑張れよ」でも天と地の差がある。前者の場合は「ふん、誰が頑張るか」という気になるし、後者の場合は「よし、頑張ろう」という気になるだろう。

 バルセロナオリンピックで、マラソンの銀メダルを獲得した有森裕子さんが、「自分を誉めてやりたい」と言って当時大きな話題になった。他人に誉められることを期待することの多い日本人にとって、「自分を誉める」という発想がひどく新鮮に聞こえたのである。だが他人に誉められるのであれば、自分を誉めたっていい筈だ。自分を誉めることによって自信がつき、自分自身のやる気が高まるのであれば大いに結構なことだ。年功序列社会の日本では、これまで回りから評価されることばかり気にしてきた。会社でも上司の顔色ばかり気にする「ひらめ人間」が多かったのだ。ひらめは海の底でいつも上ばかり見ているところから、こういう言葉があるのだ。年功序列社会の崩れだした今、もっと自分というものを自分自身でしっかり把握する必要が出て来た。自分の優れた点、劣った点を自分で客観的に把握して、優れた点は伸ばし、劣った点は補う努力を怠らずに、自分を売り込んでいく、そういう時代になってきたのだ。「自分をおだてて木に登らせる」ぐらいのつもりで、自分を伸ばして行ってほしいものだ。
 自分をもっと大事にしろというと、自己中心のことと思う人がいそうだが、これは違うから間違わぬよう気をつけてほしい。人と言う集団の中で、人と自分の関係を上手に保つことは、社会生活の中できわめて重要なことだ。人は一人では生きて行けない。あくまで社会との関わりの中で生きて行くのであって、そのためにも自分をしっかり把握した上で、周囲との調和を図って行くことが大切なのだ。また、自分を誉めて自分を伸ばせと言っても、過信や慢心してもらっては困る。「豚もおだてりゃ木に登る」はおだてると調子に乗ることだが、調子の乗って慢心すれば高いところまで登りすぎて、枝が折れ転落してしまうことになりかねない。かく言うボクもおだてには弱い方だ。おだてられると直ぐ木に登り、おまけにやや自信過剰気味だから天辺まで登って転落する危険性もありだ。充分心せねばなるまい。

 さて、「豚もおだてりゃ木に登る」に戻ろう。色々調べてみたところ、普通の辞典には載っていないが、岩波の「ことわざ辞典」には、これが載っている。それには、「昭和50年頃から言い出されたものだが、まだ諺として市民権を得るには至っていない」と書かれている。岩手、青森方面の諺に、不可能なことのたとえとして、「豚の木登り」という諺があるそうで、案外この辺から作られた言葉かもしれない。もっと調べてみると、子供向けのテレビマンガ、「タイムボカン」が出所だという通説があるようだ。ところが「タイムボカン」は昭和50年10月から始まったもの。それ以前の昭和47〜48年頃ビッグコミックという雑誌にサラリーマン向けのマンガ、「WHY SERIES」というのがあって、そのNo.4にまさに「豚はおだてりゃ木に登る」というタイトルの作品がある。作者は「つのだじろう」だが、この作品が正しい出所らしい。いずれにしろ、この言葉なかなか言いえて妙のある言葉だから、いずれは新しい諺として公認されることになるだろう。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、昨年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)


太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/


■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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