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「五匹の猿を退治しろ!」に続き、この新シリーズは月1回でスタート致します。
軽妙洒脱な文体は、更に「うずまさ一刀流?」の鋭さを増し、すっと軽く読めるがズシリと心に響く。日々の暮らしに目を向け考え悩み前進する高校生、大学生、社会人のみなさんを暖かいまなざしで叱咤激励するシリーズです。ここには社会生活をする上でのさまざまな知恵がギッシリと埋まっています。お楽しみに。

犬の遠吠えねずみ鳴き

■巻の8「 鯉は滝を登り竜になった 」  うずまさ やすのり

太秦 康紀

北海道中が息をのんで一喜一憂し、テレビ画面を食い入るように見つめた駒苫、早実の15回戦。駒苫の田中投手の踏ん張りに対して敵もさるもの、早実の斉藤投手も実によく頑張った。両校投手の疲れもピークに達しているだろうから、決勝戦は打撃戦になるだろうと素人なりに読んでいたのだが、あにはからんやピリピリした投手戦になったのである。

夏の甲子園、高校野球決勝戦である。両軍死力を尽くした闘いは、ついに15回まで均衡を破れず、37年ぶりの引き分け再試合になった。駒苫の3連覇を願う気持ちは切なるものがあったが、相手の早実にも「よく頑張ったなー」と声をかけてやりたい気持ちであった。

昨年の優勝の後、喜びに沸く駒大苫小牧高校野球部にはいろいろな試練が待っていた。香田監督も去り、一時は甲子園出場も危ぶまれる状況にあった。でもそういう中でも、選手たちは黙々と練習を続けてきたのだろう。それはずいぶん辛い期間だっただろうと思う。外部の人にはとうてい分かってもらえないほどの辛い時期だったに違いない。いつの日か、また出場出来る日を信じて、練習を続けてきたのだろう。やがて監督も戻り、選手たちは地区予選を勝ち抜いて甲子園の土を踏んだ。甲子園でも予想以上の苦戦を強いられながら、準々決勝、準決勝と勝ち抜いて、その度に強くなって、ついに決勝戦を迎えたのだ。
「再び甲子園の土を踏む、3連覇を達成する」

その目標、夢は片時も彼らから離れることはなかっただろう。目標を達成するには、強い意志がなければならない。そして夢はどんなときにも、見続けることが大切なのだ。

期待されて期待通りの働きをするということは大変なことである。まして今年は3連覇がかかっており、道民は等しくその達成を願っていた。そんな大きな期待を背にして、甲子園にのぞんだ駒苫の選手諸君の意気込みは盛んなものがあったと思う。そして同時にプレッシャーも大変なものだったに違いない。

押しつぶされそうな期待を背にして、「竜頭蛇尾」に終らせるわけには行かないのだ。「竜頭蛇尾」とは、始めは龍のように意気込んでも、終りは蛇のように振るわないことで、平たくいえば頭でっかち尻すぼみのことだ。1回戦の思いがけない苦戦から、「あるいは」という不安が脳裏をかすめた。だが、そんな不安を吹き飛ばすように、駒苫健児たちはグングン勝ち進んで行った。まさかエースの田中投手が、大会前に38度の高熱と下痢に襲われていたとは露知らぬことであった。それを決勝戦の再試合後に知って、ボクは驚嘆した。初戦、あるいは二回戦のやや不調と見えた投球はそのせいだったのだ。体調不十分で、おまけにあの過酷な暑さの中を投げぬいた精神力は一体何なのだろうか。日頃、「近ごろの若い者は」といいがちな大人たちこそ、田中投手はじめ選手たちの精神力を見習うべきである。彼らはひたすら夢に向かって、夢に向かって戦い抜いた。それはさながら厳しい滝登りに挑戦する鯉に似た姿だった。

中国の黄河の上流にある龍門の急流を昇った鯉は、化して龍になるという中国の伝説がある。ここから、「登竜門」という言葉が生まれた。「登竜門」は立身出世の関門をいう。「鯉の滝登り」もここから生まれた諺である。

田中投手の体調は徐々に回復して行ったのだろう。選手たちも北海道にない暑さとプレッシャーをものともせずに勝ち抜いていった。3連覇にほとんど手の届きそうなところまで行ったとボクは思った。確かにそれは指先を触れるまで行ったのだ。だが15回戦った決勝戦を惜しくもものに出来なかった。そして再試合。エースの田中君を始め、選手たちの疲労はピークに達していたに違いない。相手の早実の斉藤投手は小憎らしいまでにゆとりがありそうに見えた。そんなことはなかっただろう。彼だって疲れ果てていたのだと思う。だが戦況は不利だった。「やはり力尽きたか」、そんな思いで見つめたテレビ画面だったが、最終回とつぜん大逆転の期待が一気に膨れ上がった。そこに駒苫の底力を見た。そして試合は終った。

駒大苫小牧高校は堂々の準優勝に終った。3連覇はできなかったが、2.5連覇だとボクは思った。竜頭は竜のままで大会を終えたのだ。鯉は立派に滝を登って竜になったとボクは思う。みんな胸を張って帰ってくるがいい。ボクらは、そんな彼らに心から万雷の拍手を送ろうではないか。ひたすら夢に挑戦した彼らに。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、昨年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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