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「五匹の猿を退治しろ!」に続き、この新シリーズは月1回でスタート致します。
軽妙洒脱な文体は、更に「うずまさ一刀流?」の鋭さを増し、すっと軽く読めるがズシリと心に響く。日々の暮らしに目を向け考え悩み前進する高校生、大学生、社会人のみなさんを暖かいまなざしで叱咤激励するシリーズです。ここには社会生活をする上でのさまざまな知恵がギッシリと埋まっています。お楽しみに。

犬の遠吠えねずみ鳴き

■巻の9「 竜頭蛇尾に終らぬように 」  うずまさ やすのり

太秦 康紀

誰でも知っている当たり前のことだが、蛇には足がない。そこで蛇にまつわる諺である。また中国の話になって恐縮だが、諺というのは中国の故事に依っているものが多いのでちょっと我慢してもらいたい。昔、中国の楚(そ)という国で数人の男が集まって、もらい物の酒を飲むことになった。そこで酒の飲み方について話し合ったのだが、ただ酒を飲んでも面白くない、皆で蛇の絵を描いて早く描き終わった者から飲もうじゃないかということになった。皆は一斉に蛇の絵を描きだしたわけだが、一番先に描き終わったお調子者が、まだ足を描いても他の奴より早いぞと、蛇には元々ない足まで描き足したために遅くなってしまい、とうとう酒にありつけなかったという。一体このお調子者は何本蛇の足を描いたのかなーと不思議に思うのだが、この故事から不要なものをつけ加えることを「蛇足」というようになったのである。余計なことをするのを、「蛇足を加える」といい、「蛇を描き足を添う」という諺もある。

しなくてもいい余計なことする蛇足の話をしたが、現実には余計なことをするどころか、「しなければならないことをしない」ことが多い。ボクは整理整頓が大変苦手である。今こうしてパソコンに向かって原稿を書いているわけだが、パソコンの周辺には余計なもの、それは主として書類だが、それらが雑然と積み重なっている。そのために必要なものを見ようと思っても書類の山に埋まっており、毎度書類の山をひっくり返して探さなければならないということが起きる。いつも探しものをしながら、何という時間の無駄か、この探す時間がなければ仕事の能率がずっと上がるのに、この無駄な時間を他に生かすことができればもっと素晴らしい仕事ができるのにと自分を怒りながら探すのである。それなら一度きれいに整理、整頓すればいいじゃないかと言われそうだが、それが出来ないのだ。

何をすべきかは分かっている。不要なものを捨てること、雑誌など出してきたものを元の場所に納めること、この二つで机のゴタゴタはきれいになり、仕事の能率はグンと上がるはずなのだ。分かっていながら何故やらぬ。百の理由より、一つの決断なのである。この当たり前のことに気付いたのはつい最近であった。ボクは今コーチングの勉強をしている。コーチングというのは、コミュニケーションの新しい手法で、アメリカから日本に導入され、最近企業研修などで急速に注目されている。ボクは日本コーチ協会北海道チャプターの会員になっており、毎月1回の例会に参加している。この例会はコーチングの理論よりも実践を主眼としており、参加者がコーチ役、クライアント役に分かれて実践に取組む。前回の例会では「自分が困っていること」をテーマに、参加者が二人ずつ組になってコーチングの実習をやった。ボクは困っていることとして「デスク上の整理、整頓が出来ない」ことを上げ、女性のコーチ役にコーチングをしてもらった。その結果気付いたことが整理、整頓の「決意」だった。「次回までに決意できなかったら、貴方にお会いできませんね」とボクはコーチ役の女性に言った。その女性は素敵な女性だったので、これは何としても決意せねばとボクは思ったのだ。

その結果ボクは「決意」した。まず自宅の身の回りの整理から始めた。次は事務所のデスクの整理だ。これは決意したものの、まだ着手していない。しかし次回の例会までにはきれいになっているはずである。そうでないと、あの素敵な女性と顔を会わせられないのだ。

話は変わるが、目下日経新聞にプロスキーヤーの三浦雄一郎さんの「私の履歴書」が連載されている。三浦さんがプロのスキーヤーで冒険家なのは知っていたが、「私の履歴書」を読むと、これまでよく生きていたなと思うほどのもの凄い経歴である。その三浦さんが一時期だれた生活を送るようになる。60前後のことである。長年の無謀ともいえる冒険生活で、体はボロボロになっている。心臓の調子が悪くて入院する。しかし白寿(99歳)でモンブランの氷河を滑降することを目標にトレーニングを重ねるお父さんを見て、卒然と悟る。
「この体調では70前に死ぬかもしれない。それなら死ぬ前にやりたいことをやった方がいい。どうせ死ぬなら最後の、そして最高の夢、70歳でエベレストの頂上に立つ夢を実現しよう」と。

そして三浦さんは25キロのザックを背負って自宅の裏にある藻岩山に登ることから始めるのだが、途中で伸びてしまう。その横を幼稚園児や80歳を越すお婆さんが追い越していく。そのとき三浦さんはこう思うのだ。
「500メートルの山も登れない私が、5年後にエベレストの頂上に立ったらこんな面白い話はない」

そしてトレーニングが始まるのである。こうして2003年5月22日、三浦雄一郎さんは70歳7ヶ月で次男の豪太君とともに、日本人初のエベレスト親子登頂を実現するのである。三浦さんは言う。
「人間というものは、できない理由を一生懸命並べ立てるものだ。年だ、お金だ、死んだらどうする」

ちなみに父親の敬三さんは、2004年2月、99歳でモンブランからの滑降に成功している。

ボクのデスクの整理、整頓という低次元の話から、突然とんでもなく高次元の話になってしまった。この低次元と高次元に共通するのは、人間にとって大切なことは「やろうという決意」であるということ。我々には「蛇足」どころか、「やるべきなのにやっていないこと」が沢山あるのではないだろうか。決意一つで充実した人生を送れるか、中味の何もない人生を送るかの違いができてくる。ただここで大事なことは、「決意」したら「実行」するということだ。そうでないと、「竜頭蛇尾(初めは竜のように意気盛んでも、終りは蛇のように振るわないこと)」に終ってしまうからね。

さて、デスクの整理に着手するとしようか。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、昨年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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