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「五匹の猿を退治しろ!」に続き、この新シリーズは月1回でスタート致します。
軽妙洒脱な文体は、更に「うずまさ一刀流?」の鋭さを増し、すっと軽く読めるがズシリと心に響く。日々の暮らしに目を向け考え悩み前進する高校生、大学生、社会人のみなさんを暖かいまなざしで叱咤激励するシリーズです。ここには社会生活をする上でのさまざまな知恵がギッシリと埋まっています。お楽しみに。

犬の遠吠えねずみ鳴き

■巻の10「 一喜一憂するなかれ 」  うずまさ やすのり

太秦 康紀

昔、中国の北辺の砦の近くに一人の老人が住んでいた。あるとき、その老人の飼っていた馬が柵を越えて逃げ出した。近所の人が口々に慰めると、老人は「いや、そのうちいいこともあるさ」と言って一向に気落ちしたようには見えなかった。はたして逃げた馬は、間もなく北方の駿馬を連れて戻ってきたのだった。

老人の息子はいい馬がきたと大喜びして、早速その駿馬にまたがったのだが、落馬して足の骨を折り不自由な体になってしまった。近所の人はそれを見て、また大層気の毒がったのだが、老人は「これが福に転じないとも限らない」と言って落ち着きかえっていた。

やがて一年後に戦争が起こり、元気な若者はみな兵士として駆り出されて、十人のうち九人まで戦死してしまった。しかし、老人の息子は足が不自由なため兵隊にとられず、父子ともに命を長らえたのであった。

ここから「人間万事塞翁が馬」という諺が生まれたのである。人間の幸不幸は定まりがなく変わるものだから、一つ一つの禍や福に一喜一憂することはないという例えである。ここで「塞翁」というのは、「辺境の砦の近くに住む老人」という意味である。

前にも書いたかもしれないが、個性心理学というのがある。個性心理学では人間をさまざまなタイプに分類して、その人のキャラクターに迫っていくのだが、その分類の一つに未来展望型と過去回想型というのがある。未来展望型というのは、過去を切り捨て身軽になって、明るい未来を展望するタイプである。希望的観測でものを見るプラス思考型といえる。これに対して過去回想型は常に過去を抱え振り返るので身軽ではない。いつも過去がぶら下がっているので、ものの見方は悲観的になりがちで、マイナス思考タイプである。例えば試験の情報で、「この試験は100人中落ちるのは2〜3人です」などと聞くと、未来展望型の人は自分は当然97〜8人の中の一人と考えてもう受かった気分になるのである。これに対して、過去回想型の人は、悲観的な観測でものごとを見るので、「100人中落ちるのは2〜3人」と聞くと、その2〜3人の中に入ったらどうしようと、もう落ちた時のことを先に考えてしまうのである。

未来展望の人は、将来に大半の目が向いているから、同窓会などには比較的冷淡である。一方過去回想型の人は常に過去を振り返っているので、卒業アルバムや同窓会は大好きである。この二つのタイプの人をそれぞれグループに分けて、「会社から火星探査を命じられたらどうするか」という仮定の質問をしてみると、未来展望型グループからは、「会社は素晴らしい機会を与えてくれた」「有名人になれる」「火星人と友達になれる」「火星人の子供を生む」など、楽しい回答が出てくる。これに対して過去回想型グループは、「何で自分が選ばれたのか、貧乏くじを引いた」「社命なら会社をやめる」「もう地球には帰れないかもしれない」など、暗くなりがちなのである。

「人間万事塞翁が馬」の塞翁は、どうやら未来展望型の人だったらしい。「悪いこともあれば、良いこともあるさ」と悠然と構えているのである。過去回想型の塞翁なら、「馬が逃げてしまった、これからどうしたらいいのだ」とか「柵の修理をきちんとしておかなかったから馬に逃げられた、どうしてちゃんとしておかなかったのだろう、ああ、やっておけばよかった」、「そもそもあんな馬を買ったのが失敗だった」などとくよくよ悩んだりするところだ。

さて案の定、馬は北方の駿馬を連れて帰ってきた。しかし息子がその馬に乗って落馬し怪我をしてしまう。ここでも塞翁はくよくよせず、「禍が転じて福になることもある」と平然としている。マイナス思考の過去回想タイプなら「何で調教もしていない馬に乗ったのだ」、「乗馬は不得意なのだから、乗らなければよかったのに」、「どうしてウチの馬はあんな碌でもない馬を連れ帰ったのだ、なんで余計なことをしてくれたのだ」、そして「そもそもあんな馬を買ったのが間違いだった」と愚痴は止まるところを知らない。

さて諸君は未来展望型、過去回想型のどちらに属するだろうか。

ボクが銀行員時代、まだ独身の頃だったが、働いていた支店では毎月初めに店内会議というのがあった。その会議のメインテーマは「先月の反省」であった。店内の一人ひとりが先月の反省をするのだ。例えば渉外担当の行員は、「定期預金を○○万円集めると約束したのに、○○万円しか集められませんでした。すみません」、融資の担当者は、「残業せずに1日○件の融資案件を処理するはずでしたが、処理しきれず残業が増えてしまいました、すみません」、警備員のおじさんは、「郵便物の整理を午前中に済ませるとお約束したのに、毎日午後までかかってしまいました、すみません」、こんな具合で最後にみんな「すみません」がつくのである。今風に言えば、これは懺悔の会だった。懺悔の会だから、当然イヤに暗い会議であった。

懺悔ばかりしているので、この支店の業績はさっぱり伸びなかった。店内会議といえば、店の業績を伸ばすには何をやるべきかを検討して、今月こそみんなで頑張って目標を達成しようと気勢をあげるものと思っていたボクはびっくりしたものである。過去の傷口をうじうじ突いてみても、新しいものは何も生まれて来ないのである。

ボクは未来展望型である。例えば妻とどこかへ旅行に行くようなときも、ややマイナス思考の妻は、「お天気が悪かったらどうしよう」「台風が来るんじゃないかしら」と余計な心配する。ボクは心配してもしなくても、来るときは来ると思っているから、「大丈夫、いい天気になるよ」と言う。台風が来たら、来たとき考えればいいのだ。およそ世の中の出来事で、寿命以外のことは何とかなると思っているから、厄介な予定が入っていても「明日の今頃は終っている」と思い、終った後楽しく一杯やることばかり考えているのである。
「人間万事塞翁が馬」だ。人生、悪いこともあれば、いいこともあるのだ。「禍を転じて福となす」、「禍も福の端となる」という。ものごとには常にプラスの面とマイナスの面がある。プラスの面に光を当てて考えるか、マイナスの面に光を当てて考えるか、一つ一つのことについてはそれほど大きな違いは出なくても、これが長い人生の中で集積されると大変な違いになってくる。

これからの人生、いろいろな場面に出くわすだろうが、「人間万事塞翁が馬」で行こうじゃないか、諸君!


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、昨年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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