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「五匹の猿を退治しろ!」「犬の遠吠えねずみ鳴き」に続いて、新シリーズいよいよ連載スタートです。肩の力を抜いてすっと読めるがズシリと心に響く「うずまさワールド」がますます冴えわたる。筆者、太秦さんの暖かく、そして厳しく叱咤激励する気持ちから紡ぎだされる言葉のひとつひとつが、読者のみなさんの「自己との対話」に結びつくことを願っております。悩みながらもしっかりと前進する高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日をいきいきと暮らす”糧になればと念じております。ここには、生きて行くさまざまな知恵と勇気が詰まっています。隔月掲載の6回シリーズ、どうぞお楽しみに。

夢・希望へのあくなき挑戦 スクリーンは見ている

■1.映画「幸せのちから」とジャパニーズ・ドリーム  うずまさ やすのり

太秦 康紀

「パパ、これほんとにタイムマシンなの?」
「ああ、そうだよ。このボタンを押して,目をつぶってごらん」

言われたとおり、パパの持っている機械のボタンを押して目をつぶる坊や。

「目を開いてごらん。ほら、気をつけろ、向うから恐竜が来たぞ」
「ほんとだ、パパすごいや」

そこは何の変哲もない地下鉄のホームだ。だが、パパの言葉に敏感に反応した坊やは、たちまち空想の世界へと入り込む。
「気をつけろ、あっちからも恐竜が来たぞ。頭を下げて、パパについておいで。安全な洞窟へ行こう」

二人がたどり着いたのは、駅の公衆トイレの中。
「この洞窟なら安心して眠れるぞ」

トイレの床に座りパパの腕の中で、坊やはたちまち眠りに落ちた。坊やの寝顔を見ながら、パパの目からは一筋の涙が零れ落ちる。

ウィル・スミス演じるパパ、クリス・ガードナーは、しがない医療機器のセールスマン。成功を夢見て、全財産をはたいて買った骨密度測定器だったが、売れ行きは思うに任せず、家には在庫の山が。パート勤めで夫を支えた妻も、生活苦から忍耐の限度に達し、幼い坊やを残して家を出てしまった。保育所へ坊やを託し、懸命に医療機器の売り込みに奔走するパパ。だが相変わらず機械は売れず、家賃の滞納でとうとうアパートも追い出されてしまう。売れ残りの機械を抱えて路頭に迷う親子。ホームレスを泊めてくれる教会も一杯で、たどり着いたのは地下鉄の駅だった。

だがそんなパパを支えたのは、どんな逆境にも変わらぬ父親への愛と信頼を寄せるけなげな坊やの姿だった。そんな息子のためにも、父親はあきらめなかった。ふとしたことで証券仲買人のチャンスを掴んだ彼は、死に物狂いでそのチャンスに食らいつく。そしてやがて彼は大成功、億万長者の座を掴み取るのである。主人公クリス・ガードナーは実在の人物、ホームレスから億万長者という彼の成功実話を映画化したのが、先頃封切られた「幸せのちから」である。父親の心の支えとなったあどけない坊やを演じたのは、主演のウィル・スミスの実の息子、ジェイディン・スミスであった。親子だから出演したわけではない。立派にオーデションを経ての出演だったのである。

この映画は、アメリカン・ドリームの成功物語を縦軸として描いたものであるが、同時に父親と子の深い愛情を横軸として描いた「父もの」でもある。かつてのクレイマー・クレイマーもそうだったが、アメリカ映画にはしばしば息子への愛情を支えに奮闘する父親を描く「父もの」とも言える映画が登場する。「母もの」の多い邦画には、あまり見られないジャンルである。

アメリカ人はアメリカン・ドリームの物語が大好きだ。元々が新天地を目指してヨーロッパから渡ってきた人々が、未開の地を切り開いて作った国だけに、無名の貧しい青年が徒手空拳で世の中に立ち向かい、そして成功する物語は彼らのDNAを揺さぶるのだろう。この点が古来農耕民族である日本人と違うところだ。「出る杭は打たれる」という諺が、今もまかり通る日本では、昨年のホリエモン事件に見られるように、出る杭は打たれがちだ。日本の社会には、長老支配、年功序列の影がまだ色濃く残っている。

だがよく見ると、アメリカン・ドリームの成功者とホリエモンとは、実は似て非なるものがあるようだ。アメリカン・ドリームには、一攫千金で成り上がったものは登場しない。無一文の名もない青年が自らの才能だけを拠り所に、苦労に苦労を重ねてチャンスをものにして成功の座を掴む。これがアメリカン・ドリームなのだ。何だか苦労もせずにマネーゲームで成り上がった若者とはわけが違うのである。クリス・ガードナーが掴んだチャンスも、すんなり証券仲買人になれるチャンスではなかった。そのための研修を受けるチャンスに過ぎず、仲買人の道への入口は極めて狭き門だった。彼は死に物狂いで勉強しながら、その一方で子供との生活のため必死で売れ残りの医療器を売り続ける。一つのチャンスを掴み、それを生かすために必死の努力を重ねて、次のチャンスへと繋げていく。大成功はこの繰返しの結果掴み取ったもので、それはなまはんかな努力では決して得られぬものであった。

昨今楽をして金を儲けることばかり夢見る若者も少なくないようだ。だがクリス・ガードナーのようなドリームなら、充分挑戦してみる価値がありそうで、これならば「出る杭」として叩かれることもないと思うのである。新しいジャパニーズ・ドリームがそろそろ登場してもいい頃ではないだろうか。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、平成17年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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