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「五匹の猿を退治しろ!」「犬の遠吠えねずみ鳴き」に続いて、新シリーズいよいよ連載スタートです。肩の力を抜いてすっと読めるがズシリと心に響く「うずまさワールド」がますます冴えわたる。筆者、太秦さんの暖かく、そして厳しく叱咤激励する気持ちから紡ぎだされる言葉のひとつひとつが、読者のみなさんの「自己との対話」に結びつくことを願っております。悩みながらもしっかりと前進する高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日をいきいきと暮らす”糧になればと念じております。ここには、生きて行くさまざまな知恵と勇気が詰まっています。隔月掲載の6回シリーズ、どうぞお楽しみに。

夢・希望へのあくなき挑戦 スクリーンは見ている

■2.松本人志はスクリーンから何を語る    うずまさ やすのり

太秦 康紀

映画を見る場合、事前に映画評を読んだり、評判を聞いたりして予備知識を仕入れてから見に行く場合と、まったく予備知識なしで行く場合とがある。後者の方が一体どんな映画なのかなという「見る楽しみ」が多いことは言うまでもない。前者の場合は、他人の目による余計な先入観に左右されがちである。お笑い芸人である松本人志の第1回監督作品「大日本人」を見るに当たって、ボクはまったく予備知識なしに見に行った。この映画を見ようと思った動機は、才人といわれるお笑いの松本が、一体どんな映画を作るのだろうという「興味」に尽きる。ちなみに松本は今回の自分の作品について、「予備知識なしで見てほしい」ということに執拗に拘っているのだが、このことは後になってから知ったことだった。

映画「大日本人」はドキュメンタリータッチで、長髪のズラ(鬘)をかぶった松本のインタビューに始まるので、「何だ、これはインタビュー映画かいな」と思わせる。松本は普段とまったく同じような口調で、とつとつとインタビューに答える。このインタビューは映画の主人公である「大佐藤」へのインタビューなのだが、見ているとそれは松本自身のようでもあり、そうでないようでもあるのだ。そうこうするうちに、映画は意表をついて突然ヒーローものに変わっていく。ヒーローは松本扮する「大日本人こと大佐藤」である。巨大化した「大佐藤」が次々に登場する怪獣(映画では単に「獣」という)と対決する。「締ルノ獣」「跳ルノ獣」「匂ウノ獣」「童ノ獣」などの奇妙な獣と戦う「大佐藤」は、さっぱり格好よくないのである。しかも「獣」の紹介が戦前の教科書のように古色蒼然としているのも奇妙で面白かった。最後には大苦戦に陥った大日本人をウルトラマン風のアメリカンヒーローが助けに来て「異国ノ獣」をボコボコにしてしまう。つまり大日本人も困った時はアメリカ頼みになるのである。

さて、この映画を見終わった時のボクの率直な感想は「うーん、これは何だ?」というものだった。この日の日記にボクは『ほとんど期待していなかったが、結果は期待通りつまらなかった』『「お笑いブームとやらで成功し、金持ちになった芸人が道楽で撮った映画と思えばいいだろう』と書いた。相前後して見た北野武監督の「監督・ばんざい」の方が余ほど面白い、「さすがに武だ」と思ったのだ。ところが時が経つとともに奇妙な現象が起こった。20日ほど後の日記にボクはこう書いた。
『「監督・ばんざい」の方はあまり記憶に残らない。もう一度見たいとも思わない。ところが「大日本人」の方はなぜかもう一度見てみたい、どうも気になる、再度何だったのかを確かめて見たいという気がするのだ。あれはそういう変な映画である』

ちなみにエンタテイメント・ジャーナリストの麻生香太郎氏は「大日本人」について『自分の鑑賞能力のなさを暴露するようで恥ずかしいが、この作品は一度目より二度目、二度目より三度目、そして三度目より四度目のほうが面白かった』(大日本人オフィシャルガイド)と書いている。松本自身はインタビューに答えて次のように言っている。
「あのー、僕の作るものは自分で言うのも恥ずかしいけど、けっこう2回3回は全然見れるものになりますし、2回目、3回目の方がおもしろいかも分からないんで、あのーリピーターを期待しています」(同前)

つまり1回見て「何だ、これは」と思いながら、2回目が見たくなるというのは、完全に監督松本人志の思う壺にはまっているのかもしれない。

ところで誰にでもやりたいこと、やってみたいことは沢山あると思う。大方の人はそう思うだけで結局何も実現できずに平凡な人生を終えてしまうものだ。しかし大方のそういう人の中に、数は少ないが、なぜだか次々やりたいことを軽々とやって退けてしまう人がいる。こういう人は当然世間から羨望の眼で見られるが、中には余りに易々と成功するために嫉妬の対象にされ、隙を見せると世間の袋叩きに会うこともある。ライブドアのホリエモンや、村上ファンドの村上などがその口である。松本人志もやりたいことをやって退けてしまう側の一人で、映画などはその最たるものなのだが、松本自身は映画もこれまでやってきたお笑いの延長と考えているようだから、壮大な夢の実現とは思っていないかもしれない。ホリエモンや村上が、成功によって「莫大なお金」という果実を独り占め(ではないのだろうが、そう思える)したことによって、大衆の怨嗟、嫉妬を集中的に浴びたのに対し、松本は笑い、楽しみという果実を大衆に与え続けてきたことによって、映画製作・監督というでかい夢を実現させたにも拘らず、周囲はそんな松本にむしろ好意的で、更なる発展を期待するのである。

「大日本人」はカンヌ映画祭の監督週間招待作品の35作品の一つに選ばれた。上映劇場は結構な大入りで、評価も悪くなかったらしい。松本人志監督がこの映画で語ろうとした松本なりの日本および日本人感がどの程度伝わったのか。ともかく「オリジナリティー」「フィロソフィー」「現代社会の諸問題への監督のメッセージ」「アメリカの欺瞞への痛烈な風刺」、そんなところがカンヌでは評価されたようである。日本人は海外の評価に弱いが、ボクのような凡人はその中に含まれているものにすら気づかず、「何だ、これは」で映画を見終えてしまった。そして大分経ってから「はてな?」と思い返し、もう一度確かめなければと慌てている有様なのだ。まだ見ていない人には、ずいぶん余計な予備知識を与えてしまったかもしれない。「予備知識なしで見てほしい」という松本人志の意思には反することになってしまったが、松本人志がスクリーンから何を語るのかを、ご自分の目で是非確かめてご覧なさい。もちろんただ楽しむだけでも結構なのですが。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、平成17年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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