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「五匹の猿を退治しろ!」「犬の遠吠えねずみ鳴き」に続いて、新シリーズいよいよ連載スタートです。肩の力を抜いてすっと読めるがズシリと心に響く「うずまさワールド」がますます冴えわたる。筆者、太秦さんの暖かく、そして厳しく叱咤激励する気持ちから紡ぎだされる言葉のひとつひとつが、読者のみなさんの「自己との対話」に結びつくことを願っております。悩みながらもしっかりと前進する高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日をいきいきと暮らす”糧になればと念じております。ここには、生きて行くさまざまな知恵と勇気が詰まっています。隔月掲載の6回シリーズ、どうぞお楽しみに。

夢・希望へのあくなき挑戦 スクリーンは見ている

■3.君は何らしいか?                うずまさ やすのり

太秦 康紀

中卒の型破りな検事、久利生公平(木村拓哉)が6年ぶりに東京地検・城西支部に戻ってきた。彼はスーツを着ないことでも型破りな検事と見られている。久利生検事は、同僚の柴山検事(阿部寛)から彼が起訴した傷害致死事件の公判検事を任される。それは容疑者も犯行を認めている簡単な事件と思われたのだが、実はこれこそ久利生検事をかつて経験したことのない窮地に追いこむ難事件だったのである。容疑者が一転無罪を主張し、その上この事件の帰趨が大物代議士、花岡練三郎(守田一義)の贈収賄事件の鍵を握っていることが判明して、この裁判は全国民の注目を集める重大な事件へと発展したのだ。しかも刑事事件無罪獲得数日本一の敏腕弁護士・蒲生一臣(松本幸四郎)が、容疑者の弁護を担当することになったのである。窮地に追いこまれた久利生は、雨宮事務官(松たか子)を初め、彼を取り巻く検事、事務官らの協力を得て裁判に立ち向かうのだった。

上映開始間際にのんびり劇場に出かけたボクは、ほとんど満席の状況にビックリさせられた。これだけ観客が入っている映画は、久しぶりだった。だがこの映画が、かつて高視聴率を上げたテレビドラマの劇場版と聞けば、なるほどとうなずける。テレビドラマ「HERO」は2001年に放映された連続テレビドラマだが、平均視聴率30%だったという。ドラマがこれほど高視聴率を記録したのは、何といっても木村拓哉扮する型破り検事の活躍にあったのだろう。確かにキムタクファンにとっては堪えられない作品かもしれない。だが別にキムタクファンではないボクにとっては、この映画はどうということもないものに思えた。ハリウッドの優れた法廷ものを見慣れたボクには、この映画の法廷場面には息詰まるような緊迫感がまるで感じられなかった。何より日本一の敏腕弁護士であるはずの蒲生弁護士が一向に敏腕振りを発揮せず、歌舞伎役者、松本幸四郎が重々しく登場するという感じに終始したことも残念だった。唯一いいなと思ったのは、久利生検事の事務官、雨宮舞子を演じた松たか子のコミカルな演技だった。そうは言っても、この映画は記録的な大ヒットとなったのである。それは熱烈なキムタクファンのお陰だと思う。ボクがとやかく言ってはキムタクファンに袋叩きにされるかもしれない。

型破りの検事という設定だから仕方がないが、この映画の久利生検事はまるで検事らしくない。検事らしくないと言えば、同僚の検事、事務官らは皆「らしく」ない。唯一検事っぽかったのは香川照之の演じた特捜検事だった。

ところで、この「らしい」ということについて考えてみると、我々は日頃意識せずに「らしさ」を作り上げているような気がする。例えば銀行員と言えば、ダークスーツに眼鏡、やや神経質そうな顔で革かばんを下げているイメージを描く。刑事と言えばくたびれた背広にくたびれたネクタイをぶら下げ、ぼさぼさの頭、鋭い目つきといったところ。だから型破りの久利生検事が登場すると、「いくら型破りと言ったって、こんな検事が実際にいるかよ」と思ってしまう。いかにも作りものっぽくて、素直に受け入れられないのだ。

この「らしさ」つまりイメージなのだが、これは長年一つの仕事についていたことによる、体臭のようなものだろうか。ボク等はいつの間にか、職業につきまとう固定観念のようなものを勝手にイメージとして持ってしまい、そのイメージに合わないものを「らしくない」と決め付けているのかもしれない。だが考えてみると、そのイメージは、実は終身雇用、年功序列という日本的雇用形態から生まれてきたものであることに気付く。つまり長い間一つの職場に身を置いた結果、体に染み付いたものだ。だが最近のビジネス社会では、日本的雇用形態は既に崩れだしており、雇用の流動化が進んでいる。今どきの若い人たちは、会社に入ってもここに骨を埋めようと考えている人は少ないようだ。その上、企業サイドでも必要なときに、必要な人材を採るというようにストック型の雇用から、フロー型の雇用へと移りつつある。おまけに合併やM&Aなどが横行しており、A社に入ったはずなのに、B社で働いていることなどはざらにあることだ。つまり一つの会社に長年勤務して、そこの体臭が染みつくというようなことは、だんだん減っていく傾向にあり、銀行員らしくない銀行員、教師らしくない教師と言ったものが増えていくことが考えられる。だから検事らしくない検事、弁護士らしくない弁護士がいてもおかしくないわけで、一つの会社、組織にしがみついている人間は、むしろ能力のない人間だというアメリカ型社会に移行しつつあるのが今の日本の状況と言えるかもしれない。

そういうわけで、これからの若い人にはどんな環境にも適応し能力を発揮できるような変化対応力が求められるだろう。それは「らしい人」から「らしくない人」へと変わっていくことでもある。映画HEROからずいぶん話が飛んでしまったが、話を木村拓哉に戻せばキムタクは何をやってもキムタクらしい。キムタクのファンはそのキムタクらしさに痺れるのだろうが、彼が役者として大成しようと思うならキムタクらしさを捨てることだ。もっとも彼はキムタクらしさで大人気なのだから、そんなことは「余計なお世話だよ」と言われるかもしれないが。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、平成17年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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