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「五匹の猿を退治しろ!」「犬の遠吠えねずみ鳴き」に続いて、新シリーズいよいよ連載スタートです。肩の力を抜いてすっと読めるがズシリと心に響く「うずまさワールド」がますます冴えわたる。筆者、太秦さんの暖かく、そして厳しく叱咤激励する気持ちから紡ぎだされる言葉のひとつひとつが、読者のみなさんの「自己との対話」に結びつくことを願っております。悩みながらもしっかりと前進する高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日をいきいきと暮らす”糧になればと念じております。ここには、生きて行くさまざまな知恵と勇気が詰まっています。隔月掲載の6回シリーズ、どうぞお楽しみに。

夢・希望へのあくなき挑戦 スクリーンは見ている

■4.「4分間のピアニスト」、その感動!       うずまさ やすのり

太秦 康紀

「あなたのライフワークは?」とか「自己実現の方法は?」とか聞かれたとき、サッと答えられる人は少ないだろう。ボクだって「ライフワークは何?」と問われればマゴマゴするばかりで、ちょっと答えられない。「そう言われてもねえ」と頭を掻くのが落ちだ。自己実現にしても同じようなもの。これといったものがないのだから。

孤独な老女のライフワークと、屈折した心を持つ若い女性の自己実現欲が激突し火花を散らす映画がある。そしてぶつかり合った彼女らの、心と心が爆発するクライマックスのピアノ演奏、それが「4分間のピアニスト」なのだ。

刑務所で囚人にピアノを教える孤独な老女、クリューガー。彼女のライフワークは囚人の中から新しい才能を発掘し、育てることだった。ある日彼女は素晴らしい才能を秘めた若い女囚、ジェニーを発見する。だが彼女は凶暴な性格の問題児だった。残る人生に音楽しかないクリューガー は、何とか頑なな少女の心を開かせ、コンテストに優勝させようと努力を続ける。しかしジェニーの頑なな心は容易に開かず、その上ちょっと目を離すとクリューガーに言わせれば低俗な音楽であるジャズを演奏しようとする。ナチ収容所で同性愛の愛人を失った過去を持つクリューガー、一方恋人の犯した殺人の罪をかぶった上その恋人に裏切られたジェニー。それぞれ傷を持つ二つの孤独な心が、ピアノを介して、音楽を介して激しくぶつかり合う。

コンテストの決勝を目前にしたジェニーは、刑務所内の陰湿な陰謀により暴力事件を引き起こしてしまう。その彼女を無断で刑務所から連れ出すクリューガー。脱走に気付いた刑務所側のパトカーが迫る満員のオペラ座で、ジェニーはついに決勝の舞台に立つ。曲目はシューマンのピアノコンチェルト。衝撃と感動の4分間の演奏がいよいよ切って落とされる。その演奏の内容は、そして結果は・・・・、それは見てのお楽しみである。

この世に生を受けて、死ぬまでに自分がこの世に存在した証を残したい、そう思う人は多いと思う。自分が存在した証、それこそがライフワークなのだろうとボクは思う。そうは思うが、生まれて70年を越えた今、ライフワークと言えるものはまだない。後何年生きることが出来るか分からないが、多分今後もそれは残せないだろう。もちろんボクが存在した幾つかの取るに足らない証のようなものはある。だがそれらはボクの死とともに忘れ去られて行くに違いない。例えば妻や子、孫たちの心の中にボクという存在が残ったとすれば、せいぜいそれがボクのライフワークに似たものかもしれない。でもそれだって、彼らの死とともに消えていく運命にあるのだ。

映画「4分間のピアニスト」の中で、老いたクリューガーのライフワークは音楽のみ、それも新しい天才を発掘し育てることだけである。この世になんの楽しみもない老女のライフワークに賭けるひたむきな心が見るものの心を打つのだ。

自己実現とは何だろう。最近自己実現のために結婚しない、子供を作らないという若い女性が増えているそうだ。自己実現とはそういうものだろうか。結婚し、子供を作り、ごく普通の生活をしながら心の中に熟成させていったものを、いつか外界に向かって開花させる、それが自己実現なのではないだろうか。自己実現とは一握りの天才だけのものではない筈だと思う。

天才少女ジェニーは、恋人の罪をかぶって刑務所に入っている。鬱屈した心を持て余す彼女は所内でもしばしば暴力事件を起こす。そんな彼女の自己実現は机を鍵盤がわりに、無心に指を動かすことだった。それは音にならない演奏だが、それが彼女の自己実現だったのだ。彼女の心の中には、誰にも聞こえない音楽が聞こえていたのだろう。孤独な刑務所生活の中で、心の中に熟成を重ねて行った彼女の音楽が爆発する時、それは衝撃の感動を呼ぶのである。それは天才にだけ許される感動である。

ボクらは残念ながら人に感動を与えるほどの才能を持ち合わせない。だからボクらはボクらなりの自己実現をすればいいのだと思う。それは多分ほとんど自己満足と同義語のものになるだろうが、それはそれでいいのではないだろうか。

人生を賭けたライフワークをジェニーに裏切られたと思ったクリューガーは、何杯もワインを呷るのだったが・・・・・。スクリーンからボクを見つめる老女教師の顔。そして渾身の演奏を終えたジェニーは「どうだ!」とばかりスクリーンから挑戦的な目でボクを見る。そしてボクはと言えば、暗い座席で、ただ感動に浸っているのだった。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、平成17年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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