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「五匹の猿を退治しろ!」「犬の遠吠えねずみ鳴き」「スクリーンは見ている」に続くシリーズ4作目がいよいよ連載開始です。今シリーズは筆者、太秦さんの暖かくまた厳しい観察眼がテーマです。自分以外の人やモノ、事柄から実に多くのことを学ぶものです。ただしそのためには、しっかりと良く見て深く考える必要があります。読者の皆さんには「うずまさ君の澄んだ目の考察」から皆さん自身の観察眼を磨いていただけるものと思います。高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日をいきいきと暮らす”糧になればと念じております。より良く生きて行くための観察眼、ウイットと知恵。隔月掲載の6回シリーズ「うずまさ・ワールド」をどうぞお楽しみに。

観客席のポップコーン

■3.どこから来て、どこへ行くのか          うずまさ やすのり

太秦 康紀

人はどこから来て、どこへ行ってしまうのか。そんなこと決まっているじゃないか、お母さんのお腹から生まれて、歳を取ったら死んでいくものでしょうと言われてしまえば実も蓋もない。だが母親の胎内に宿る前はどこにいたのか、死んだ後はどこへ行くのか、それは誰にも分からないことだ。ボクもだんだん歳を取り、遅かれ早かれこの世をおさらばするときが来るだろうが、その先はどうなるのかは皆目分からない。どうなるのか分からないから、のほほんと生きていられるのかもしれない。

若い皆さんなら、日々の仕事や勉強、スポーツなどに打ち込んでいるから、そんなことを考える暇もないだろう。そしてまだ若いからそんなことを考える気にもならないかもしれない。

平松正四郎はある藩の城勤めをしている若い藩士だ。仕事は勘定方の監査役である。城代の息女との婚約も整い、まずは幸せな日々を送っている。そんなある日、見も知らぬ娘が正四郎の家に迷い込んできた。武家娘風だが、手足は汚れ着物も泥だらけ。娘は「平松正四郎様に会いたい」と言うだけで、自分の名前すら記憶にない。しかし美しく清楚な上に一緒にいると何とも癒される不思議な雰囲気を持つ娘で、家人も正四郎もすっかりその娘が気に入ってしまい、ついには城代の娘との縁談を断ってその娘を妻にしてしまう。

だがふさと名づけられた娘は、稀に忘れた記憶が呼び戻されかけるのか、異常な行動を示して正四郎を不安に陥れることがあった。だがそれもほんの一瞬のこと、ふさは又いつもの愛しい妻に戻るのだった。こうして娘も誕生し、正四郎の楽しく平穏な生活が続いた。

ある十五夜の晩、庭に毛氈を敷き月見の宴を催している時、ふさの異常な行動が起きた。何かものに憑かれたような表情のふさが、庭をゆっくり歩みながらつぶやいた。
「これが笹の道で・・・・、この向こうに木戸があって・・・・」

動きは一瞬で終り、夫の胸に倒れこんだふさは、その一瞬を何もおぼえていない。

勘定方監査が始まり、正四郎が城に泊まりこんだ晩、ふさは忽然と姿を消した。八方手を尽くして探しても、ふさの行方はようとして知れない。

ふさは、正四郎には見えない笹の道を行き、その先の見えない木戸を通ってどこかえ行ってしまったのであろう。
「ふさはいつか又、夫であるおれのところへきっと帰ってくる」、正四郎は庭の梅林の奥を見つめながら、自分にそう言い聞かせるのだった。

映画、「その木戸を通って」は、亡き市川昆監督の作品である。ハイビジョンテレビのための試作品として作られ、一度だけハイビジョンテレビで上映されたが、以後日の目を見ていなかった。市川監督ならではの映像美に彩られた幻の逸品がこのほど上映され、我々の眼に触れることになったのだ。

ある日忽然と現われ、そして忽然といなくなる美しい娘。その娘に主人公は癒され、幸せな数年を送る。幻ではない証拠に、娘は子まで残していった。しかし、どこから来て、どこへ消えていってしまったのかは誰にも分からない。それはあたかも夢幻のような数年間ではあったが、その間の幸せは紛れもなく現実のものであった。そして残された娘はすくすくと育っているのだ。

ボクらもある時、それは母親の胎内を借りてではあるが、ふとこの世に現われ、そしてある時ふとこの世から去っていく。現われる時も去る時も、それは自分の意思とは関わりない。来る前のことも、去った後のことも、誰にも分からない。人はその人なりの「笹の道を歩いて、その先の木戸を通って」去って行くのかもしれない。その人の人生が、50年か80年か、あるいは100年かも知れないが、最後にはその木戸を通って去っていくのだろう。

正四郎はふさとの数年を幸せのうちに過ごし、その後は残された娘とともに思い出の中に生きていくことになるだろう。我々も与えられた何十年かを、精一杯生きて、満足しながらその木戸を通って行きたいものだ。そして残った人たちに、いい思い出を遺して行きたいものだ。

そのためにも、今日を、明日を大事に生きて行こうではないか。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、平成17年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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