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「五匹の猿を退治しろ!」「犬の遠吠えねずみ鳴き」「スクリーンは見ている」に続くシリーズ4作目がいよいよ連載開始です。今シリーズは筆者、太秦さんの暖かくまた厳しい観察眼がテーマです。自分以外の人やモノ、事柄から実に多くのことを学ぶものです。ただしそのためには、しっかりと良く見て深く考える必要があります。読者の皆さんには「うずまさ君の澄んだ目の考察」から皆さん自身の観察眼を磨いていただけるものと思います。高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日をいきいきと暮らす”糧になればと念じております。より良く生きて行くための観察眼、ウイットと知恵。隔月掲載の6回シリーズ「うずまさ・ワールド」をどうぞお楽しみに。

観客席のポップコーン

■4.危機と権力に立ち向かう母親の強さ        うずまさ やすのり

太秦 康紀

観客席でポップコーンを頬張り、コーラなどを飲みながら気楽に楽しむのも映画だ。何故かポップコーンがやたらに旨くて、目は画面に引きつけられながら、手の方は絶え間なくポップコーンの大きな紙コップへと伸びる。ジェームス・ボンドが活躍する007などは、正にポップコーンとコーラにぴったりの映画だ。

だがポップコーンへ伸びる手がはたと止まり、まるで凍りついたように身も心も画面へ吸い寄せられてしまう映画もある。
「チェンジリング」は正にそんな映画の一つだった。シングル・マザー、クリスティン・コリンズの一人息子、9歳のウォルターがある日忽然と姿を消したときから、ボクは完全に映画の中に引き込まれ、ドキドキしながら主人公のクリスティンと一緒になって不安に苛まれ、喜び、怒り、息を飲んでその展開を見守った。とに角面白い。一体この先どう展開するのかと胸が高鳴る。辛い残酷な場面もある。だが何事にも屈しない母親の強さを、これでもかこれでもかと見せつけられて、改めてアメリカの女性の強さに目を見張るのだった。

ある日仕事から帰ったクリスティンは、留守番をしていた一人息子、ウォルターの姿が見えないことに気がつく。ロス市警の捜査にも関わらず、ウォルターの消息は杳として知れない。不安に苛まれ気も狂わんばかりのクリスティン。
ところが5ヵ月後、ロス市警青少年課のジョーンズ警部からウォルターがイリノイ州で見つかったとの連絡が入る。狂喜してウォルターを迎えに駅へ駆けつけるクリスティン。だがそこで彼女が見たのはウォルターと名乗るがウォルターとは違う少年だった。様々な証拠を基に、発見されたウォルターが別人であることを必死に訴えるクリスティンに対し、ロス市警は少年が行方不明だったクリスティンの息子、ウォルターに相違ないと固執、逆に別人だと訴える彼女は精神異常だと精神病院に強制入院させてしまう。自分らの功績が傷つくことしか考えていない警察にとって、クリスティンの主張は邪魔以外の何ものでもなかったのだ。警察の手先と化している精神病院でクリスティンは生命の危機にさらされる。だがかねがね警察の堕落、腐敗を追及してきたブリーグレブ牧師の手によってクリスティンは救出される。折しもロス郊外で少年の大量虐殺が発見され、犯人ゴードンが逮捕される。そして殺された少年の中にウォルターの存在が確認されたのだった。

事態がここまで来ても、ロス市警は少年誤認事件の責任を少年に押し付けて逃げ切りを策す。ジョーンズ警部の背後には警察の体面しか考えない本部長がおり、更にその裏には選挙を控えた市長がいる。クリスティンはブリーグレブ牧師や正義の弁護士の協力を得て、警察という巨大権力を相手取って敢然と戦いを挑むのだった・・・・・。

信じられないようなロス市警の腐敗堕落、そして一方にはおぞましい少年誘拐虐殺犯の存在。その狭間で子供を失った上に、警察の対面保持のために抹殺されようとする母親。こんなことがあるのかと全く信じられないような事件だが、これは1928年ロスで起きた事実に基づく映画なのだ。警察と精神病院の恐るべき圧力の中で、一切妥協せずに真実の追求に挑む強い悲劇の母親を、アンジェリーナ・ジョリーが熱演する。今まで見たジョリーとは別人のようなジョリーの好演である。彼女を助ける牧師にジョン・マルコビッチ、そして悪辣非情なロス市警警部にジェフリー・ドノバン、身の毛もよだつような不気味な殺人犯にはジェイソン・バトラー・ハーナーが好演している。

監督のクリント・イーストウッドは、二時間半に及ぶ過酷な物語を、感情に左右されずに緻密に描いている。今や彼も巨匠の仲間入りである。

この混乱した現代、ボクらの身にもいつ何が起きるか予測もつかない。昨今の予想もしない世界的金融・経済危機だって、1年前には全く予想できないことだった。増して一個人の身に予想もしない人的災害が襲いかかったとき、ボクらそれに敢然と立ち向かって行けるだろうか。しかもその相手が巨大な権力であり、そのパワーを全開して牙を剥いてきたとき、長いものに巻かれがちな我々日本人が、孤独な戦いに全身全霊をかけて立ち向かえるとは、とても思えない。どこかの時点で泣き寝入りしてしまうのが関の山であろう。近時、国としてはいろいろな問題を抱えているアメリカ、いやそういう国だからこそ、自分の身は自分で守るという、長い年月を経て彼らが学んだ信念を、曖昧な事なかれ主義の我々は大いに学ぶべきではないかと、この映画「チェンジリング」を見終えて、暗い客席で映画の余韻を味わいながらボクは思ったのである。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、平成17年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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