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「五匹の猿を退治しろ!」「犬の遠吠えねずみ鳴き」「スクリーンは見ている」に続くシリーズ4作目がいよいよ連載開始です。今シリーズは筆者、太秦さんの暖かくまた厳しい観察眼がテーマです。自分以外の人やモノ、事柄から実に多くのことを学ぶものです。ただしそのためには、しっかりと良く見て深く考える必要があります。読者の皆さんには「うずまさ君の澄んだ目の考察」から皆さん自身の観察眼を磨いていただけるものと思います。高校生、大学生、社会人のみなさんにとって新シリーズが“明日をいきいきと暮らす”糧になればと念じております。より良く生きて行くための観察眼、ウイットと知恵。隔月掲載の6回シリーズ「うずまさ・ワールド」をどうぞお楽しみに。

観客席のポップコーン

■6.残酷で時に可笑しな人生路 うずまさ やすのり

太秦 康紀

体内に断りもなく住んだ奴   三猿

『ボク自身が、余命6ヶ月を宣告されて、「棺おけリスト」を作成するとしたらどうだろうか。これは現実にあり得ることだから、真剣に考えてみるべきことかもしれない。振り返ってみると、ボクはかなりやりたかったことを実現させることが出来た。…略…このように、やってみたいことが次々実現できて、ボクは大変な幸運に恵まれていたと思うのだ。…略…「棺おけリスト」に書き込むことがそんなにないということは、ボクの人生がそれだけ充実しており、恵まれたものだったということにもなる。とても有難いことだ』

この文章、ずっとボクのエッセイを読んでいただいた方なら、どこかで目にしたような文章だと思われたかもしれない。そう、これは第3シリーズ、『スクリーンは見ていた』の最終回、『最高の人生を目指して』の一部だ。映画『最高の人生の見つけ方』を題材に、余命6ヶ月を宣告され、やりたかったこと、やってみたかったことを書き抜くとしたらを読者に問い、同じ問いを自分自身にも問いかけたエッセイだった。もうお忘れの方、まだ読んでいない方は、ちょっと読んでいただけると有難い。

人生は時にこっけいで、時に残酷である。のほほんと、こんな文章を書いていたボクが「がん」になったのだ。去年の7月のことである。いや7月は手術をした時だから、実際にはそのかなり前から「がん」に罹っていたことになる。一昔前までは、ガンと言えば死の宣告みたいなもので、正直言って「棺おけリスト」どころの話ではなかった。本人にはガンのことを告げずに、家族をこっそり病院に呼んでガンの事実を告げたりしたものだ。

しかし時代は変わった。今や多くの場合ガンは本人に告げられる。ボクも医者からガンを告げられ、手術をしてから1年が過ぎたが、今もこうして平気な顔で以前と同じに生きている。知らない人は(今まで余り人に言っていないので知らない人が多い)、ボクを見て「いつまでも若くて、元気ですね」などと言う。言われたボクは、ニコニコして「お陰様で」などと答えている。ボクは「棺おけリスト」なんか作っていないし、出来れば男の平均寿命である80歳までは生きたいなと今も考えている。

がん告知真っ白になる予定表   三猿

結果的に、元気に日を送っているとは言え、ガンと知ったときは、それは天地がひっくり返るような出来事だった。ただ、ガンという事実が段階を踏んで分かってきたので、「告知、即死の宣告」のようなものではなかった。ボクのガンは精巣ガンと言うもので、平たく言うと男性のシンボルがガンになったのだ。その話をすると殆んどの人が、「えっ、そんなところのガンてあるの」と驚く。右側のその部分が腫れて大きくなってきたので、ボクは異変に気がつたのだが、最初はそんな部分のガンはないだろうと思っていた。だが秘かにインターネットで調べてみると、それはちゃんとあった。ただ若い人の病気で、高齢者は滅多に罹らないと書いてあったので、ボクは一安心した。医者にも中々行かなかった。しかしいつまでも腫れが引かないので、6月のある日決心してかかりつけの医院に行き、すぐ専門病院に行けと指示された。専門病院では腫瘍があると診断され、取った方がいいが高齢なのでガンではない可能性が高いと言われた。ぼくはちょっと東京に出張するからと会社に言い、摘出手術を受けた。手術は3泊4日で終わり、つまり簡単に終わり、その2週間後に「残念ながらガンである」と医者から言われたのだ。ある程度覚悟が出来ていたボクは、医者が拍子抜けするほど平静にそれを受け止め、以後3ヶ月ごとに検査を受けて今日に至っている。生活状態は普段とまるで変わらず、ボク自身も表面上は何も変わらないので、知らない人は全然気付かない。

ボクは現在、週3日は美容室をチェーン展開する会社の会長として会社へ行く。週2回は自分の事務所「うずまさ事務所」へ行き、ボランティア関係の仕事をしたり、このエッセイのような文章を執筆したり、時にはのんびり遊びに出かけたりしている。土日、祭日は家におり、妻と映画や音楽、落語の鑑賞に出かけることが多い。落語が来れば、ほとんど聞きに行って大笑いをして帰ってくる。笑いは免疫力を高めるのに良いと聞いているので、テレビのお笑い番組もよく見て、「くだらない」などと怒らずにゲラゲラ笑って見ている。

趣味の川柳はこのところ充実しており、春先には所属する「札幌川柳社」から幌都賞という賞を、先日は北海道川柳連盟から奨励賞を頂き、この度は札幌市民文芸の川柳部門で奨励賞を頂くことになった。表彰式は11月だ。

こうして公私ともに、年齢の割には充実した毎日を送っているわけだが、もちろんガンのことは片時も忘れない。忘れないけれども、一応退治して終わったことと思っているので、気に病んではいない。気に病んでも仕方のないことで、万一また攻め込んできたら、それはその時のことと割り切るようにしているのだ。割り切っているが、気にはしているという微妙な心理状態だ。ガンを経験した人が皆こうだと言うわけではもちろんない。こればかりは個人差がもの凄くあるだろうと思っている。

出来れば、句集を含めてもう1,2冊本を出したい。そう思いながら、生来の怠けぐせが抜けずに、のんびり構えているのである。相変わらず困ったものだと、自分でも思っている。

このシリーズは、観客席でポップコーンでも頬張りながら、いろいろなものをちょっと客観的な目で見てみようと思って始めたものだ。シリーズとしては、前シリーズの続編的なもので、スタンスをちょっと変えてみたつもりである。そして最後の題材にはガンになった自分を選んでみた。ガンにはなったが、この文章にもある通り、元気に日々を過ごしており、次のシリーズのことなど考えたりもしている。まだまだしぶとく生きるつもりなので、またお会いできるかもしれない。その日を楽しみに、このシリーズを終えることにしよう。

(完)

■編集者より
1年、365日、8,760時間、525,600分…そして、31,536,000秒の時間と空間。私たち一人ひとりが平等に持つことが許される喜怒哀楽の『間』。うずまさワールドに魅せられた多くの読者のみなさんは、新しい原稿が公開されるのを心待ちにし、筆者太秦さんと共にするその一時を大いに楽しまれたことと思います。そして軽妙洒脱な文章の中に、心の深いところで“明るい可能性”を見出すことがきっとできたことと思います。どうぞ、これを機会にこれまでの全シリーズを読み直してみることをお勧めします。きっと“もっと前向きなあなた自身”を見つけることができるでしょう。好評のうずまさワールド『観客席のポップコーン』は、残念ながら今回が最終回です。多くの読者と筆者の太秦康紀さんには心からの感謝とお礼を申し上げます。次回シリーズも検討してスタートしたく考えておりますので、それ迄どうかご辛抱してお待ちください。この1年間のご愛読と執筆、本当にありがとうございました。


▼ お知らせ ▼

筆者:太秦康紀さんは、平成17年11月に3冊目となる本を出版しました。新風舎文庫「さらりー漫歩」。全国の書店で発売中です。
サラリーマンの喜び悩み、そして生きてゆく知恵と勇気、行動をユーモラスに鋭く描いております。ご自身の体験が底流に流れていますので、一種のドキュメンタリー作品としての側面も持っています。
札幌紀伊国屋書店の「話題の本」「新刊本」のコーナーに置かれています。またHBCラジオや読売新聞などですでに紹介されておりますので、一度手にとってご覧下さい。

「さらりー漫歩」著者::太秦康紀さん
「さらりー漫歩」
定価700円
(新風舎文庫)

太秦康紀HP http://www.rak3.jp/home/user/monkey69/

■筆者プロフィール
太秦 康紀 UZUMASA YASUNORI
1935年02月: サッポロで生まれる。
1958年03月: 北大法学部を卒業、4月に北海道銀行へ入行。
約28年間の銀行員生活を経て、1985年11月同行退職。
1985年11月: 医薬品問屋、(株)寿原薬粧の社長に就任。
1991年04月: 同業7社の合併によって誕生した(株)バレオの副社長に就任。
1996年06月: 同社常勤監査役に就任。
1999年04月: 再度の合併で社名は(株)ほくやくとなり、引き続き監査役。
2000年06月: (株)ほくやく監査役を退任。
2000年08月: 太秦事務所を設立、所長となる(経営コンサルタントを自称)

著作: ・しなやか散歩道(1995年2月 近代文芸社)
・しなやかれすとらん(2003年4月 北海道新聞社出版局)
・北海道新聞「朝の食卓」1998〜99年執筆
・さらりー漫歩(2005年11月 新風舎文庫)
その他: 家庭裁判所家事調停委員、(株)スハラ食品監査役
(株)芭里絵監査役などを勤めた。現在はTVコメンテーター、FMパーソナリティ、講演、文筆など気ままに活動中。
血液型 AB型、星座 うお座(たまにみずがめ座)、動物占いでは落ち着きのない猿。趣味は、映画鑑賞 格闘技鑑賞 ゴルフなど

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